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そもそも、可愛いだけが正義なのか?
かっこいいと思って選んじゃダメなのか?
選んだものを、選んだ理由を、千尋に否定されるたびに、灰色は少しずつ少しずつ墨汁を混ぜ込むみたいに黒くなる。
「朱音ちゃんと同じ高校に行きたい、絶対そうする!」
中二までそう意気込んでいた千尋を、曖昧に笑っておきながら出し抜いた。
千尋が気付いた時には、もう追いつけないところに私はいて、最初に希望していたとこよりも二ランク上の高校を受けることにした。
高校生になったら『一緒にライブに行こうね』と約束をしていた、二人が大好きなバンド。
音のかっこよさに惚れた私と、ボーカルくんの可愛い顔が好きだという千尋。
やっぱり噛み合わない。
一個ずつイヤホンを分け合いながら、その音源を聞いている間中、千尋は泣き出しそうな顔をしていた。
「やだな、朱音ちゃんと離れるの」
唇を尖らして私がランクを下げて、同じ高校にしてほしいとおねだりする千尋の頭を撫でた。
「大丈夫だよ、千尋ならすぐに友達ができる」
微笑んだ私を一瞬睨むようにして唇を噛んだ千尋。
同じ音を分け合っているのに、どこか違う方を向いていることを二人とも感じ取っていたと思う。
私たちの卒業は実にあっさりとしていた。
卒業証書を掲げ合って『じゃあ、またね! また会おうね』と笑顔で別れた。
抱き合って泣くこともない。
『またね』がいつになるかはわからないし、もうないかもしれない。
予感は的中で、お互いに連絡を取り合うことはなかった。
あんなにも毎日一緒にいたというのに。
二年後、ショートカットになった私は、視線を感じて周囲を見渡した。
小路の向こう、ロングヘアで彼氏と腕を組み甘えたように歩く女の子の背中は千尋に似ていた。
私の持つ紺色のリュック。その色違いの白いリュックを背負った彼女に、懐かしさとほんの少しの痛みを感じて、あの日千尋がしていたみたいに唇を噛みしめる。
『またね』をすぐに果たしていたならば、今が変わったのだろうか?
千尋は、私からの連絡を待っていただろうか?
私は待っていなかったのだろうか?
黒ではなく白に近い、ツンとした切ない感情を、寂しいというならば、今がそうだ――。
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