本当は全部わかってた

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 二か月前のことだった――。 「更新、どうする?」  私の声は震えてないだろうか?  奥歯を噛みしめて感情を閉じ込める。  二人で借りた部屋、二年おき、二度目の更新の知らせが届いた日、彼の目の前に、その書類を置いたのは私。  夕飯の時にもチラリと見ていた彼が、ようやくそれを手にしたのは食後の後片付けに私がキッチンに立ってからだ。  横目でそれを確認して、彼に声をかけた。 『もう、そんな時期だっけ? じゃあ、更新料払わなきゃだね』  二年前の亮太なら、何の迷いもなく、すぐに返答してくれた。  思い過ごしであって。祈るような気持ちで、尋ねた私の問いに、やや時間があってから。 「絵里、……この機会に、別々に暮らしてみない?」  希望が、音を立てて崩れ落ちた気がした。 「え、っと……、それって、別れたい、ってこと?」  喉が詰まるように、うまく声が出せないことはバレてしまっているだろう。  彼が好きだと言ってくれた笑顔を必死に取り繕う。  食器を洗う手を止めて亮太の目を見た。  瞬間、彼は私から目を反らして、書類を捲る。 「絵里と別れるわけじゃないよ? たださ、俺、今仕事に集中したいんだよね。だからお互いにまた一人暮らしに戻らない?」  口角だけをあげて、笑っているように見せる亮太。  いつから、亮太は私にこんな顔をするようになったっけ? 気まずそうに、目を反らして口元だけで無理に笑って見せる。  ああ、確か数か月前、新入社員の女の子の相談にのってあげだした辺りからかな。  最初は、メッセージでやり取りしていた。  その内、部屋を抜け出して一時間も戻らない夜が幾度かあって、さすがに私も不安になって尋ねたら。 『大学時代からの彼氏とうまくいってないらしくて、相談に乗ってるんだ』と。  なぜ、亮太にそんな相談するのか、と問い詰めたなら、私の了見が狭いように思われるんじゃないかと、それ以上は聞けないでいた。  気付きたくなかったから――。  
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