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「週末、先に引っ越すね」
「そっか。住所、後で教えてよ」
笑顔で告げる私に、本当に安堵したような顔を覗かせたのも全部わかっていたよ。
アルバムのフォルダごと削除するには、まだ心の整理がついていない。
だけど、もう二度と表示されない連絡先は必要ないだろうから、震える指でそれを消した。
しばらくは、そらで言えるほどに、あなたを覚えてしまってるのが悔しいけれど。
触れ合うことのなくなったあなたの温もりだけは、もう消えかけているから。
だから大丈夫、きっと顔だって声だって、少しずつこうして私の中からいなくなるはず。
懐かしさでまた胸が痛む日があっても、二人でいるのに一人ぼっちのような時間はもういらない。
「すみません~、荷物こちらでよろしいですか~?」
開け放った玄関の向こうから、引っ越し業者の声が響いた。
「大丈夫です。よろしくお願いします」
いつか幸せになるために、しっかりと自分の足で立って玄関に向かう。
今日から笑顔を取り戻すために、まずは口角をあげながら――。
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