奪われた花嫁

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「照れていらっしゃるんですか…?」 すぐ真上から、頭の中のものとまったく違う声が降って来て、わたしはハッとなった。 いつの間にか真横に来ていた荒尾が、わたしを見下ろしている。 「こんな可愛らしい方を花嫁に迎えられるなんて、私は果報者ですねぇ」 そう言った口調はほのぼのとしているのに、レンズの向こうの目は少しも笑っていない。 まるで蛇がチョロチョロと舌を出し入れしながら、獲物に襲い掛かる間合いを図っているみたいに。 「私と結婚すればすぐに森乃やは立て直せますよ。あなたは心配なさらず若女将の修行に励まれたらいい」 「………」 わたしが返事をせずに黙ったままでいると、荒尾はわざとらしく大きな溜め息をついて言った。 「正直、あなたが海外に逃げた時はどうなることかと思いましたけど」 「そっ…!それは別に、」 逃げたわけじゃない。 そう反論しようとしたけれど、他の人から見たらそう思われても仕方ないと、口をつぐんでしまう。 「ここの跡継ぎであるあなたが逃げ出して、残ったのはあの自由奔放な妹の方。だけどまあ、あなたが日本に帰って来なければ、妹さんでも仕方ないかという意見もありましたが、それもこれもその妹さんの無節操さで不可能になりましたしね」 「妹をバカにするのはやめてください」 「別にバカになんてしていませんよ。事実をそのまま口にしただけです。実家の店を手伝いもせず、ここから出て行ってからはほとんど帰って来ない。挙句、デキちゃった結婚だ」 「………」
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