戸惑いの蜜月

7/28
前へ
/199ページ
次へ
ローズマリー、バジル、ミントは種で。種蒔きの時期が過ぎていたカモミールやタイム、ラベンダーは苗を買ってきた。どれもメジャーなハーブなので、日本でもわりと簡単に手に入る。 本当はもっと色々と植えたいのだけれど、さすがに嫁に来たばかりなのに、温室をハーブだらけにするのは気が引ける。 たとえそうなっても祥さんは文句を言わない気がしたけれど、とりあえず様子を見ながら増やしていけばいいと思う。 「あなたが芽を出す頃には、もう少し奥さんらしくなれてるのかなぁ……」 カモミールのプランターの前にしゃがみ込んで、種が埋まっている土に語り掛ける。そうでもしないと、『話す』ということを忘れてしまいそうだった。 本格的に結婚生活が始まったというのに、この二週間彼はほとんど家に居ない。 彼は毎日、朝食もそこそこに朝早くから仕事に行き、帰宅も遅い。 夕食を一緒に取ったのは数えるほどで、泊りがけの出張も多く、数日間顔を合わせないこともざら。実際今も香港へ行っている。 いつもこんなに忙しい人なのだろうか、彼は。ホテル経営の知り合いなんて居るはずもなく、どんなお仕事なのかなんてさっぱり分からない。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3918人が本棚に入れています
本棚に追加