戸惑いの蜜月

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「体を壊さないといいんだけど……」 これからどんどん暑くなるのだから、せめて食事くらいはちゃんと取って体力を蓄えた方がいいと思うけれど、そんなことを口うるさく言えるほど、わたしはまだちゃんと彼の『奥さん』にはなりきれていない。 この家は十分すぎるほど広くてモデルルームのようにモダンでおしゃれだけど、一人でいるとなんだか落ち着かない。だからなのか、気付いたら温室に入り浸ってしまう自分が居た。たとえ空っぽのプランターばかりだとしても、緑と土に囲まれている方が不思議と落ち着くのだ。 西に傾いた陽射しが桜の葉の隙間から温室に差し込んでいる。ずいぶん陽も長くなった。 近付いてくる夏の足音が、時は止まらないのだと告げている。 「さてと。家に戻ったら先にお風呂に入ろっかな」 夢中で作業をしていたので汗をかいた。まだ明るい時間だけど、とりあえず先に汗を流そうかな。そう思いながらすっくと立ち上がった瞬間、くらりと目の前が揺れた。 (わっ、やばい……) グルグルと視界が回り、目の前が暗くなる。倒れるのを防ごうと伸ばした手が空を切った。 倒れる。―――そう思った時。 「寿々那っ!」 切羽詰まった声に名前を呼ばれた直後、わたしはその場に倒れ込んだ。
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