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「体調が良くないなら早めに病院にかかった方がいい。体が辛いようなら往診を頼んでもいいし」
「いえ、そんな大げさなものじゃないですって……ちょっと温室の暑さで水分が足りなくなっただけですよ?その証拠に頂いたお水とチョコレートでちょっとスッキリしましたもん」
「……ならいいが」
「はい。夏バテの先取りなんて笑っちゃいますよね…?ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「迷惑はかかっていないが、心配はした」
頬を指の背で撫でられながら顔をのぞき込まれ、頬がじわりと熱くなっていく。
烏羽色の瞳に心配とは別の種類の火が灯った気がして、わたしは慌てて視線をそらし、口を開いた。
「えっと、ハーブの世話ばかりに気を取られてないで、ちゃんと自分のこともちゃんとしないと…ですよね。次からは気をつけます。あっ、そうだ。祥さんのご両親にはいつご挨拶に伺えますか?もう二週間経つし、早くご挨拶をと思って」
「そうだな、折を見て一緒に行こうか。向こうの都合も聞いておく」
「よろしくお願いします。あんなに立派な温室を使わせていただくことも気になっていて……。やっぱりお義母さまにひと言お断りをした方がいいと思うんです」
祥さんは『誰も使う人がいないから、温室は寿々那の好きにしていい』と言ってくれたけれど、やっぱり元の持ち主に無断で使うのは気が引ける。お母さまはずいぶん丁寧に使われていたようで、ガラス温室は閑散としている割に、状態はとても良かった。
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