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「すぐにお会いできないのならせめて電話か手紙でも、―――祥さん?」
「あ、……ああ。いや、その必要はない」
「え、」
「ちゃんと俺から許可は取ってある。そもそもこの家のことはすべて俺に任せると言われているから、寿々那が気に病むこともない」
「でも……」
この家の世帯主は祥さんなのだから、そう言われたらそうかもしれない。けれど、なんとなく釈然としない。彼はわたしを両親に会わせたくないような気がしてしまう。―――なんとなくだけど。
老舗とはいえ、傾きかけの料亭の娘だなんて財産目当てだと思われても仕方がない。
もちろんわたしは彼の財産なんて欲しいと思ったことはないし、むしろ処女を押し付けた上に荒尾との結婚から助け出してもらった恩を返したいとすら思っている。
けれど───、
だからと言って愛し合って結婚したわけでもない。
そのことがわたしを後ろ暗い気持ちにさせるのかもしれない。
黙ってしまったわたしに、彼は頭をポンポンと軽くはたいて言った。
「心配しなくても大丈夫。二人とも三十四まで独り身でいた俺のことを相当心配していたから、『やっと落ち着いたな』と今頃ほっとしているだろう」
そういえば、彼のご両親は『孫の顔が見たい』と言っていたと聞いたっけ。
なかなか結婚しない息子に業を煮やして、『孫を産んでくれるならもう誰でもいい!』という境地になったのだろうか。
だとしたら、彼がわたしを嫁にした理由って―――。
「赤ちゃんが欲しい……?」
「は……?」
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