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願うことは消失。
そう、すべて消えてしまえばいい。
時間も、記憶も、そしてなにより自身の存在そのものが消えてしまえばいい。心の底からそう願った。
じっとりとした空気、風はなく、不快な湿度が額に汗をにじませる。まもなく夕刻だというのに、いまだ熱を帯び西の空を赤く染めているのは9月の太陽。
色濃く残る夏の気配とともに、また一日が終わっていく。人気のなくなった校舎はとても静かで、どこか他人のような顔をしていた。
「……あいつは、死にました」
そういった彼は、どんな気持ちでそれを口にしたのか。それを聞いたあの人は、どんな思いでそれを受け止めたのか。
彼の気持ちは想像がついたが、あの人の思いはわからない。知る術もない。けど、学生時代に起きた一つの出来事として、時間とともに薄れゆくのだろう。そして忘れていくのだ。
それでいい。それがいい。
それが、私の願いなのだからーー。
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