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教会
山菜摘みから帰ってきた日の夜、ユラシアの両親は相談をしていた。
「なあ、ユラシアは何か、変じゃないか? 」
その話について、母親の方がよく経験していた。
「うん、あの子少食すぎるし、不思議なところで泣き出すのよ。まるで仕方ないから泣いているって感じで、我が子ながら、気味が悪くて。あの子のことは愛してる、だからこそ心配なのよ」
「そうだな......今度、教会に行ってみるか」
「お医者様がダメなら、そうするしかないわね......」
有名な神父がいるという教会に行く。そうすればユラシアのことが分かるかもしれない。そう思い、両親はユラシアと教会に行くことを決意した。
-数日後-
ユラシアを連れて教会へと来た一家。大きな扉を開けると、質素だがきれいなステンドグラスに彩られた室内が目に入った。
「ここが教会......」
「......アナガデロ様ですね? 」
教会に見惚れていると、前から有名な神父が声をかけてきた。とても優しい声で、両親は安心した。この人になら子供をみてもらえると。
「はい、そうです。今日は」
「息子さんですね? 不思議な力を持っていると」
両親は驚いた。来るということは言っていたのだが、相談の内容までは言っていなかったのだ。
「なぜ分かったんですか? 」
「女神様からのお告げがありましたので......ではこちらへ」
神父は、一家を椅子のあるところまで案内した。そこに座るように言うと、少し話した。
「ここで待っていてください。ユラシア様と、二人きりで少しお話をさせていただきたい」
「ええ、構いませんが......」
「では......ユラシア様、参りましょう」
ユラシアは、大人しく言うことを聞いた。
神父は個室にユラシアを招き入れた。ユラシアを部屋の椅子に座らせると、扉にきっちりと鍵がかかったことを確認し、盗聴されていないかということもチェックした。
「......さて、ユラシア様。いや、正しくは小神野 美千年様ですかな? 」
ユラシアは驚き、神父に質問を投げ掛けた。
「な、なぜ俺の名前を知っているんだ! 」
「お告げでございます。全能の女神、ゲユイナル様からの......あなた様のことは存じております。前世に罪があることも、ゲユイナル様のご加護で小さき頃からスキルを持ち合わせていることも、すべて」
優しげな口調は変わらず、神父は話した。ユラシアは、この世界でも自分のことを理解してくれている人物がいることに、少し感動した。
「そうか......聞きたいことがある」
「どのようなことでも」
「俺は、何をすればいいんだ? どうすれば罪が清められる? 」
「......それをお伝えしようと思ったのです」
神父は歩いてきて、ユラシアの目の前に座った。
「小神野様、あなた様は天国へ行きたいですか? 」
「それは、どういう......」
「小神野様がこの世界を気に入っているのであれば、ずっとこの世界に居続けてもよいのです。その選択肢があるからこそ、ゲユイナル様は小神野様に、不死のスキルをお与えになったんです。しかし、この世界での使命を終え、天国へと導かれる方がよいならば、このまま人生を過ごすだけで使命が終わり、天国へ行く権利が与えられます」
そう神父に言われたが、ユラシアの腹の中はとうに決まっていた。
「俺は、この世界に残りたい。残って、女神がいったように人を救うんだ。あの時のように! 」
神父は、その姿勢に心打たれた。稀に見る潔白の意思の持ち主であると。神父は、ユラシアが前世で罪を犯したということを、信じられなくなっていた。
「......都会に出て、冒険者の資格をとってください。そして、町で一番大きなギルドに入ることを進めます。今の年齢では到底無理なので、あと十数年後ということになりますが......」
「構わない......ありがとう」
「いいえこちらこそ。女神様と直接お会いした方と話すことが出来、まことに光栄でした」
では、と神父は立ち上がり、部屋のドアを開けた。ドアが開いた音を聞くと、両親は心配そうな面持ちで、神父の方を見た。それに神父は、いつも通りの優しい声で答えた。
「産まれた際の周囲の魔力量による身体異常ですかな。むしろいい魔法使いになれる素質をもった子ですよ」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます! 」
「いいえ、あなた方に神のご加護があらんことを......」
こうして、ユラシアに対する疑惑は前よりも軽いものになった。両親は、ユラシアが元気に育つことに、安心を覚えた。
しかし、それをよく思わない者が一人いたのを、ユラシアは感じとることが出来なかった。
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