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初依頼
ユラシアは、ギルドの仲間たちに怪訝な目をされて迎えられた。それもそのはず、ギルド入りたてでSSSランクなど前例がない。それに、ユラシアの見た目からして、明らかにSSSランクのものではないのだ。
あちこちで噂が流れた。
ユラシア・アナガデロは卑怯者だ。
ユラシア・アナガデロは金でランクを上げてもらった。
そんなユラシアと話そうとする者など、一人としていなかった。
前言撤回。今ほどユラシアが、ギルドの冒険者に話しかけられた。
「おいユラシア。マスターにゴマすってSSSにしてもらったらしいな。俺がこき使ってやってもいいぞ。依頼を手伝え」
不愉快。とても不愉快であった。しかし、ユラシアはギルドのことをなにも知らない。どのような仕組みで動いているのかを、誰かから学ぶ必要があった。なので、こんなやつにも文句は言えないのだ。
そいつは依頼が貼ってあるボードを見て、依頼を取った。
「......山の調査か。推定ランクD。楽勝だな」
そいつは名前をガレンというらしい。冒険者が話しているのを聞いたところ、周りからの評判はすこぶる悪いらしい。前世の世界でいうところの、いじめっこというやつだ。
そんなやつと依頼に行くことになったユラシアを、冒険者たちは気の毒に思った。卑怯者のユラシアを。
-依頼の山-
その山は、どこかの資産家が所有したいらしく、そのためにギルドに調査してきてほしいと依頼をしたらしい。
「ったくよぉ、自然は嫌いなんだよ」
「......」
着々と山の調査を進めていくガレンとユラシア。特に変わったことはなく、調査も無事に終わると思われた。その時。
「お、なんか声がするな」
ガレンはその声を辿って走り、ユラシアから離れてしまった。
「まったく、世話のやける肉達磨だな」
ユラシアも、その後を歩いて追った。
-数分後-
見えてきたのは村だ。しかし、ユラシアが住んでいた村よりも文明が進んでいないように思える。それに、なにか様子が変だ。まるで誰も住んでいないような。
「ガレン! ここはなんなんだ!! 」
すると、一軒の家屋の中から叫び声が聞こえた。普通の叫び声ではなかったので、ユラシアはその家屋に急行した。
「大丈夫か!! 」
そこでユラシアが目にしたのは、人間のようなものを、自身の剣で貫いているガレンだった。その後ろにも、生きている女性がいた。
「おう、遅かったな」
「何してやがる......」
「......この調査の依頼主、山が綺麗な状態であればあるほど報酬を弾むって言っててな、この村をさら地にすることにした。もうここ以外の家の奴らは殺しておいたぜ」
ガレンは剣を引き抜き、後ろにいた者に歩みよった。しかし、そのままユラシアが黙って見ているわけはなかった。
ユラシアは、ガレンと生きている者の間に立ちはだかった。
「あ? なんの真似だテメェ」
「......殺す必要はなかったはずだ」
「俺はなぁ、こいつらみてぇな獣人が大嫌いなんだよ!! 気持ち悪ぃ見た目しやがってよ!! 」
獣人、それは、獣と人の両方の特性をもっている生物。ユラシアは前世のアニメで見たことがあった。それゆえ、愛着がわいていた。
それを侮辱したガレンは許せない。しかし、生きている獣人の安全確保が大事だ。
「おいあんた、立てるか? 」
ユラシアが手をさしのべようとすると、ガレンが後ろで剣を振り上げた。音もなく振り下ろされた剣は、ユラシアの頭を狙っていた。
しかし、スキルによって、ユラシアの頭が割れることはなかった。むしろ、ガレンの剣の方が弾かれてしまった。
「防御魔法? だが、防御魔法は対象を捉えなければ発動すらできない。ってことは、自動発動の防御魔法か!! 」
ユラシアは、ガレンがもうちょっと話が通じる奴だと期待していた。しかし、もう信じられない。悪質な不意打ちをするようなやつを、生かしてはおけない。
「......創造」
スキルを発動すると、ユラシアの手の中に、どんなものでも切り裂く魔性の剣が握られていた。
「な、なんだよその禍々しい剣は!! 」
「破壊」
スキルによって、ガレンの剣は粉々になってしまった。ガレンは唯一の戦う手段を失ったのだ。
「お、おい! お前が俺に勝てると思ってるのか? お前は偽物のSSSランク冒険者! 俺は本物のAランク冒険者だぞ!! 」
「お前がAランクとは、マスターも見る目がないな」
ユラシアの威圧感に負け、ガレンはたまらずその場から逃げ出した。しかし、ユラシアがそれを逃がすわけがない。
「加速」
ユラシアの移動速度は、普段の20倍ほどに上昇し、即座にガレンに追い付くことができた。その上で、ユラシアは手にもった剣で、ガレンの鎧を少しづつ削っていった。
「ひぃ!! ひええええ!! 」
鎧はだんだんと意味を成さなくなり、やがてユラシアの剣は、ガレンの肉を削ぐという行為に移行した。
「いだい!! いだいよ!! おがあさん!! 」
逃げるだけの体力がガレンになくなった頃には、出血が酷く、体力があっても動けない状態になっていた。
「野垂れ死ぬのを見届けてやる」
やがてガレンが死戦期呼吸に移ったのを確認すると、ユラシアはさっきの家屋へと足を運んだ。
「おい、居るか? もう大丈夫だ」
家屋の角で震えている獣人の傍へ近づき、ユラシアは手を差し伸べた。しかし、その手は獣人によって叩かれ、行き場所を失ってしまった。
「あたしはもう人間が嫌いです!! どこかへ行ってください! 」
心の傷。それは手術でも簡単には直せない難病であり、外傷よりも痛い傷なのだ。この獣人はそれを負ってしまった。ガレンによって。
「......あんたの気持ちは......痛いほどよくわかる」
俺も仲間を殺されたんだ。
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