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あれから河口湖周辺まで戻って、湖畔にある雑貨屋をふらふらと見ていた。柿小の職員室内は、旅行に行くとお土産を買って配るという風習がある。大きな学校では個人的に仲の良い人にしかお菓子さえ配らないけど、規模の小さい柿小では職員室にいる全員に配られている。職場へのお土産のお菓子も手に入れて、帰りにワイン工房に寄っていた。
「ねえ悠さん」
悠さんは運転があるのでワインの試飲は出来ない。どのワインを買って帰るか、さっきからじっくりと選んでいる。私はと言うと、長い旅路で酔っぱらわない程度に控えめに試飲していた。
「私、気づいちゃったんですけど」
「ん?どした?」
買い物かごにもう既に数本のワインが入っている。そういえば悠さんと一緒に飲むときはビールが多くて。ワインも好きだとは知らなかった。
「もしかして、悠さんの…」
声を顰めて耳元で話す。
「両方のお母様に同時に気に入られるって、不可能なんですかね?」
ここでその話題が出るとは思っていなかったようで、彼の顔が固まった。
「黒瀬のお母様は、和佳子さんの息がかかってなければ良いって言われたでしょ。でも、和佳子お母様に気に入られたら、息がかかってるってことになりますよね?」
「そう、だな…」
悠さんは手にしていたワインを棚に戻して、思案し始めた。
「ということは。私達って、解決不可能なことで悩んでたのかなって…」
「そうかも…しれないな」
「和佳子お母様を軽視している訳でも無視している訳でも無いんですけど。本当は尊重すべきだって分かってはいるんですけど。でも、全員が同時に納得するのってかなりの無理難題なんじゃないかと思うんです」
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