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「だから…」
「だから?」
「時間をかけるしか無いのかなって」
さっき棚に戻したワインを買い物かごに戻した彼は、私の次の言葉を待った。そんなに慌てなくてもワインを選ぶ時間ぐらいあるのに。悠さんだって悠さんなりに悩んでいたし、この話題は落ち着かないのだろう。
「時間、か…」
「私達、結婚するんでしょ?」
「ああ。勿論」
「じゃあ時間は何十年もあるじゃない。10年でも20年でも、自然に和佳子お母様が納得…というよりも諦めに近いと思うけど。分かってもらえるのを私は待とうと思う。多分、私達が何か言えば言うほど、意地になっちゃうだろうし、私達だってしんどいもの」
「そう、だな…確かに、言えば言うほど、だもんな、あの人…」
レジのある建物に歩みを進める彼に寄り添って歩く。その手に持つ買い物かごはいつの間にか2つになっていた。さっきまでかごは1つだったのに。いつの間に増やしたのだろうか?
他の買い物客は紙袋にワインを入れて貰っていたけど、悠さんはワインの量が多いので段ボールに詰められていた。重さで段ボールの底が抜けないように、店員さんがかなり頑丈に段ボールの底を補強してくれているのが、妙に可笑しかった。
「なあ、美咲」
帰り道、高速道路のサービスエリアの駐車場でご当地サイダーを飲んでいた。目だけで返事をすると、彼は言葉を続けた。
「入籍日、決めないか?」
「ごほっ…!ごほごほっ!」
「大丈夫か?」
「へ…変なとこ入った…」
背中をさすって貰い、何とか呼吸を整える。
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