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〜終焉〜
その狂乱とも言える
藤田の姿を見た
マネージャーの佐藤は
急いで家を飛び出し
自家用車に乗り
藤田が住んでいるマンションへ向かった
やっぱり断るべきだったか
藤田が壊れるくらいなら
売れなくてもいいから一生そばにいてやる
べきだった。
畜生!
心の中で悔やんでも悔やみきれない
思いを吐いた。
マンションの駐車場に着き
車から飛び出すかのように降り、
エレベーターの下るボタンを連打した。
エレベーターのドアが開き
2階のボタンを押す。
変なことは考えないでくれよ…
佐藤の心の中は最悪の事態のイメージが
浮かんでいた。
そして2階に着き201号室へ向かう。
201号室に着いた。
ドアノブを回すと
開いていた。
ドアを引き
「藤田!大丈夫か!」
大声で叫んだ。
しかし返答はない。
より一層、最悪のイメージが強くなる。
恐る恐る部屋に入室した。
外は昼間だったおかけで部屋に
朝日が差し込んで明るかったが
やけに胸騒ぎが止まらなかった。
リビングの方に向かってもなお
藤田の姿は見当たらなかった。
あったのは粉々になったカメラだけ。
粉砕され跡形も無くなったカメラを
手に取ると
「佐藤さんやっぱり来てくれたんだ」
優しく包容力のある彼女の声が後ろから聞こえた
「藤田、大丈夫だっ…」
後ろを振り向いた瞬間
頭部に重い衝撃が走った。
佐藤は背から倒れ込んだ。
目の前に居たのは
ハンマーを持った藤田だった。
「どうして…」
薄れゆく意識の中藤田に問いかける
「佐藤さん、あなた最初から私の事
商売道具にしか見えていなかったんですね
だからさっきも大事な大事な
カメラを手に取って悲しんでいた
自分の金銭欲の為に私がやりたくもない
仕事も引き受けた。
身体を張ったお金が
全てスマホ越しで楽に見ている貴男の
元に行く
最初に気づくべきでした
名も無きファンの方から仕事を貰った?
私はその人に対して認識も無いのに
ましてや名前も教えてくれない
会うことすら出来ない
その時点で貴男の自作自演だと気づかな
かった私が馬鹿でした
報酬の300万も
はなから払う気が無かったのでしょう?
もうお見通しです」
まずい、藤田は勘違いしている
俺はやっていない。自作自演なんかしない
俺はただ、藤田が幸せを祈って
話を持ち掛けたんだ
「あぁ…藤田違う、お前は勘違いしている」
「何が違うのよ
現に私の仕掛けた罠に
引っ掛ってるじゃない
この生活の収入源である
視聴人数、つまり視聴回数
視聴環境を壊せば
焦った貴男なここに来て
現場を確認するだろうと思った
だからこうやって一つ一つのカメラを
丁寧にハンマーでぶち壊したのよ
しかも貴男、最近というか
最初にURLを送ってくれたメール以来
連絡なかったじゃない
その時点で訝しく思っていたのよ
そして今日こうやって明らかになった
もうお前の顔、声、姿を見たくない
さようなら、くたばれ」
藤田はそう言い残すと
仰向けに倒れている
かつてのマネージャー、佐藤の
顔面目掛け
今までの怒りがこもった
渾身のハンマーを振り下ろした。
「これで良かったんだよね
これでさぁ…」
「大丈夫ですか!藤田さん!」
私の後ろから聴いたこともない声が聞こえた
声のする方へ振り向くと
全身青ジャージの頭皮はハゲちらかした
おじさんが焦った表情で息を切らしていた
「あの…どなたですか
もしかして警察ですか」
「いや、私は
この365日アイドルの姿を観察しよう
を提案して仕事を投げかけた
富士と申します
今までお会い出来ずすみません。
本当でしたら、会って話を
するべきだったのですが
私が芸能プロダクションの運営をしており
ましてこの生活が達成した際には
こちらから契約のお話を持ち掛けさせて
頂こうかなと思っていまして
なんか、その方がサプライズ感も
あるかなと遊び心でつい思い浮かんだので
今までマネージャーの佐藤さんにも
内緒にして頂きました。
そして、今日の配信を見ていたら
カメラを藤田さんがハンマーで
暴れているのが確認できたので
新しい配信用のカメラを持ってきた
次第です。
そうしたら
あそこで倒れているのは
マネージャーの佐藤さんですよね?
一体何が起こったのか
説明して頂けますか?」
その言葉を聞いた瞬間
私の目から涙が溢れだし
息絶えたマネージャーに
抱きついた。
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