From The Darkest Past

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From The Darkest Past

バラク・オバマ大統領が2013年6月6日の核攻撃-のちの世界で“大災厄”と呼ばれる出来事である-による急死を経て、臨時で就任したロックフォード・ダンヒル大統領代理によるホワイトハウス批判演説を行った際、氏の地元ニュージャージー州ホーボーケンの特派員が決行したインタビューからの抜粋…… 「……旧政権が行った隠蔽の中で、最も重要な点は先駆者(ハービンガー)と人間が契約をすれば、人知を超えた能力を得られるということとみなしてよろしいでしょうか?大統領代理」 「私はそうは思っていない。それに、当時の研究者はドイツ語読みで先駆者(ヴォルヴォート)と名付けていた。あんなものは何も重要ではないし、与えられた特殊能力などその先の代償と比較すれば些細なことだ」 「御冗談を、先駆者(ヴォルヴォート)から与えられる能力の偉大さは今や全人類のあこがれの的ですよ」 「ああ、そうなんだろうな。人類はおろかで醜くてもろい。だから平然と過ちを犯し、繰り返し、そして目先の快楽に溺れることしかできずに誰かに利用されて死ぬ。しかも、この場合は相手が人間ですらない。とうとう人間同士の食い合いは行きつくところまできた、あとはそれ以上の存在が根こそぎ奪って高笑いするだけだ」 「しかし、そのような側面ばかりでもないでしょう?事実、あなたはそのことについてだれよりも知っていて、そして皆あなたに期待している。半信半疑だった学者連中も黙らせるほどの数字的裏付けもある……よろしければ、視聴者の皆さんに説明していただけないでしょうか……」 「いいだろう、しかしとても簡単なことだ。先駆者たちが欲しがっているのは人間一人一人の空白の未来だ。なぜ、社会が発展するほど人生が味気なくなるか、それは自分の未来が安易に想像できるからに過ぎない。学歴や収入、就労先、そんなまやかしで、人々は惑わされ踊らされ、行きつく先の死をただ恐怖して忘れるためなら何でもする。先駆者(ヴォルヴォート)はそんなつまらない人間を相手に、異能力を菓子に見立て誘拐用の車に誘うだけだ。その車に乗せられたら最後、絶望しかない。他の感情など消えるほどのな。そうして気づいた時にはかけがえのないものをすべて失う」 「しかし、我々は月に立つことすら叶えた過去があります!絶対に、先駆者(ヴォルヴォート)を欺き逆にうまい汁を吸いつくす方法があるはずです……少なくとも多くの人々はそう期待しています。あなたが、全人生を賭けてまで旧政府の隠蔽を暴く決断をした時から、ずっと」 「私はそんな安易な愚問に答えるためにこの会見を開いたのではない、だが、不幸にも私が言おうとすることはその答えにもなってしまう。他ならぬ私自身が先駆者の研究……魔導研究計画(プロジェクトヘクセン)に参加していたことは、周知だったな?」 「ええ、しかし、あなたは限られた権力者のみでその成果を独占せず、人類で共有しようと思い立たれ……」 「警告にも共有が必要だ。私がかつての仲間を裏切ってここで公開した意図はそこにしかない。あれは人類がおおよそ関わってはいけないものだったんだ……先駆者(ヴォルヴォート)は不死身だ、人間の未来を、つまり未知の未来を糧に永遠を生きる。誰かの未来を食べつくして、誰かに殺されるまで生きながらえる。人間一人一人のあらゆる可能性を豚のように食いつくす……わかりにくいだろうが他に言い表しようがない。そして先駆者(ヴォルヴォート)は他に生きる方法がない。だから人類を生み出したのも先駆者なのだ。文字通り、我々の先を駆ける者。絶望をまき散らしながらな」 「お話は変わりますが、プロジェクトのタイトルにもあったHEXEN(魔導師)とは?」 「先駆者(ヴォルヴォート)たちが操る正体不明のエネルギーを魔導質と呼んでいた。そして、それを使いこなすHEXEN(魔導師)は人々を冥府魔道に引きずり込み、そして地獄への引導を渡す導師……導師とは、仏教用語だ。フン、研究者の誰かがかぶれていたんだな、死者に現世と黄泉の橋渡しをする高僧のことだ。センスがいいつもりなのかは知らないが、そのあたりをつなげた言葉だ。そう、まさに君たちが羨望する先駆者(魔導師)から与えられた能力を使いこなす者のことだよ……君、煙草を一本吸わせてくれ……」 「どうぞ」 「……私がいくら警告したところで、君たちは目の当たりにしてもなおわからないのだろうな……いずれ、どのような未来が待っているか想像できるかね?」 「はあ、そのあたりは何とも……」 「……私たちは先駆者(ヴォルヴォート)の奴隷に過ぎないのだよ。未来永劫……」 ここで、テレビ局に武装勢力が突入し生放送中のスタジオで銃を乱射、ダンヒル大統領代理を含む23名を殺害。犯人グループは生存者の証言からフランス系および東欧系のもので構成されていたようだが、詳しいことは不明である。
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