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「さあ、シャワーを浴びてきなさい。君がシャワーしている間に、食事の準備をしておこう。」
「あんたの名前は?」
睨むように言うアーロンに、男は可笑しげに笑って答えた。
「これは済まなかったね。私はフランク・ハミルトン。ここのバーのオーナーをしている。よろしく。」
出されたフランクの右手に、アーロンは何も言わずプイッとそっぽを向いた。フランクがまた笑う。
「さあ、シャワーしておいで。」
そう言って、アーロンの背中を押した。仕方なくというように、アーロンはシャワー室に入って行った。
「此処に着替えを置いておくからね。」
フランクが優しい声で言って、シャワー室の入り口の横にある、小さな棚の上に綺麗な洋服を置いた。
フランクが出て行くのを確認して、アーロンは着ていた洋服を脱ぎ始めた。
彼が着ていた洋服は、汗と垢と埃と、その他諸々の物で汚れ果てていた。
まるでぼろ布だ。
アーロンは自分の洋服をジッと眺め、小さく笑った。
シャワーの下に立ち少しだけ考える。
そういえばシャワーなんて、此処何年もまともに浴びた事などなかった。体が汚れてくると川で泳ぎ、風呂の代わりにした。
暖かいシャワーの湯に体を預け、石鹸で擦る。
3年分の汚れが、次第に綺麗になっていくのを、自分ではない別の人の体を見るように、ボーっと見つめた。
体を洗うと、一皮剥けたような気がした。
シャワーを終え体を拭いて、フランクが準備してくれた洋服を着る。柔らかなその感触に、幸せだった頃を思い出し胸が痛くなった。
いや、俺はもう街のごろつきだから。あんな幸せな時間など二度と訪れては来ない。
そう心で念じ風呂場から出た。
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