それしか無い選択肢

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正直驚きと戸惑いしかなかったものの、顔を赤くしたり青くしたりと、こちらの様子を伺う桔平の姿に否と言える筈もない。 それに、この子供には少しでも味方が多い方がいい。 材料は少し多めに用意すべきだと、微笑む祖母にありがとうと笑う桔平は、早速スケジュールにイベントとして書き足した。 ***** お盆前にある夏祭りは浴衣を着て案内所へ行けば、景品と交換出来ると言う抽選券を貰えるとあって、会場は色とりどりの浴衣を着た人間で溢れ返り、眼でも楽しめる光景に余計に楽しみが加速するも小学生達は既に屋台に夢中だ。 「おい!!りんご飴食べようぜっ、りんごっ」 「いや、やっぱ最初はたこ焼きだろっ!晩御飯抜いてきてるんだしっ!」 「きっぺー、行こうぜっ!」 裾が乱れるのも気にせず、走り出す友人達の後を追いながらも、甚平姿の桔平はキョロキョロと周りを見回す。 祖父と来ていた時は、がっちりと手を繋がれていた為、行動範囲が狭いと感じていたが今日は好きに見て回れる。 (すごい、キラキラだ…) 屋台に飾られた提灯や電飾、くじ引き屋には玩具やぬいぐるみが飾られ、クレープ屋の見本もやたらと美味しそうに見えるから不思議だ。 小遣いは三千円。 祖父から千円、祖母から千円、自分で貯めたお小遣い千円。 全部使うつもりはないが、財布をしっかり握り締める桔平はうずうずと口元が緩むのを止められない。 さっきまでたこ焼きだ、りんご飴だと言っていた友人達は金魚すくいに興じているようで、誰がどれだけ取れるか、と競い合いまで始めている。 それを後から覗き込む桔平に勇次郎が声を掛けた。 「お前もしようぜっ、どっちが多く掬えるかさっ」 鼻息荒くそんなお誘いをしてくれるのは有り難いけれど、首を振る桔平は困った風に笑う。 「いい。俺責任持てねーし」 「責任?何の?」 「捕まえても、育てられるか分からんっていうかさ」 「は?」 意味が分からないと首を傾げる勇次郎の顔はきょとんとしたもので、それに益々気まずさを感じるのは桔平だけらしい。 (生き物はな…) 命は、預かれない。 ズボラな自分が生き物を飼えるとは思えないし、何より父親のように無責任な事は絶対にしたくない。 反面教師とはよく言ったもので、桔平の心の奥底にはそんな考えが無意識に蓄積され、どろりと埋まっていた。 「俺ちょっとカキ氷買ってくる」 「分かった、すぐ戻ってこいよっ」 そんな心根を誤魔化すように、そそくさと友人達から距離を取る。 何だかさっきまで高揚していた気持ちが萎えていくのを感じ取り、勝手に脳内に入り込んできた父親にも腹が立つ。 最後に見たのはいつだったか、もう顔なんてぼんやり程度にしか覚えていないと言うのにクソだと言う事はしっかり覚えているのが余計にムカつき度を増させるが、注文したかき氷にサービスだと掛けられたミルクが桔平の眼を輝かせた。 店主に礼を言い、たっぷりのミルクとイチゴのシロップが掛かっている頭頂部をそのままおにぎり感覚で一口。 口内に伝わる冷たさと甘みにぎゅうっと身を縮め、 (う、まぁ…) と、眼を細め友人達の元へと戻る桔平のご機嫌も健康に気を遣い出した中間管理職の血糖値の如く緩やかに上昇していく。 金魚すくいの屋台前にはもう誰も居ない。他の親子連れが楽しそうに金魚を吟味してるのを横目に、少し進んだ先の射的場に居る勇次郎の姿を発見。 しゃりしゃりと氷を食みながら、そちらに近づくもどうやら様子がおかしい。 「ムカつく、クソガキどもがっ」 聞こえた声にハッと眼を見開き、駆け足に友人達の元へと近づけば、勇次郎と対峙する人間が居る事に気付いた。 (誰だ…?) 中学生くらいだろうか、ふんと不遜な態度に逸らした胸は驚く程薄い。 しかし近づいてみれば、驚く程に可愛い顔をしている。 一瞬女かと見紛う、その容姿。 ばさばさの睫毛が囲うくりくりの眼は零れ落ちそうな程に大きく、茶色の癖っ気の髪、白い肌に桃色の尖らせた唇は暗がりながらも、よく目立つ。 けれど、来ている浴衣は紺色の明らかに男性物。 「人が狙ってたのを横取りするとか、本当小学生の癖に生意気なんだよっ」 声も矢張り女性の様に高くはない。 「お、おい、何があったんだよ、」 「あ、きっぺーっ!」 声を掛けた桔平に勢い良く振り向いた勇次郎の眉間の皺は深い。 「ちょ、コイツさぁ、何か知らねーけどさっきからイチャモンつけてくんだよっ!俺が射的で落とした奴を狙ってたとか言ってさぁ!」 「は…?え?」 射的用の銃は三つ備え付けてある。 そのうち、勇次郎とこの男が二つを利用し、なんやかんやで揉めていると言う事なのだろう。 「何がいちゃもんだよ、僕が狙ってたお菓子を全部ゲットしたくせにっ!!」 「はぁ!?何言ってんだよ、俺がコツコツ打ってずらしてた的に横から打ち込んできたのはそっちじゃんかっ!死ぬほど下手くそで当たらなかっただけでさぁ!!」 「誰が下手くそだよっ、人が玉詰めてる間にバンバン落としていきやがってっ!」 「玉詰めも下手くそで時間掛かり過ぎだったじゃねーかよっ!」 ―――――… 成程。 互いに主張したい事は分かった気がする。 この可愛らしい容姿の男は、相当、 「て、言うかさっ!お前ら少しは考えろよっ、こんなに可愛い僕が一生懸命やってんだよっ、気を遣えっ!!!」 ヤバい男だ。
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