それしか無い選択肢

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小学生でも感じ取れる何か。 そろりと後退りする桔平はこそりと勇次郎に耳打ちをする。 「お前のかーちゃんは?」 「あー…捕まえた金魚一度家に持って帰ってくるから、って」 いねーのかよ… ボソリと出そうになった言葉を飲み込み、兎に角こんな可笑しい奴からは逃げるが勝ち。 (店のおじちゃんも明らかに迷惑そうだし…) 遠い目のそれは人間以外の者を見ているようにも見える。きっとこんな外来種初めて見たに違いない。 走って逃げよう、と声を掛けようとした瞬間、 「おい、マコっ!」 此方に向かってどたどたと走ってくる男の姿が三人。 「お前急に居なくなるなよ、心配しただろっ」 「小さいんだから、見えないんだよっ」 「そんなに可愛いと変な奴に絡まれるだろーっ」 どうやらこの可笑しな男の友人か何かなのだろう。 心配そうに声を掛けながら、ぐるりと男を取り囲み始めた団体様。中心ではギャーギャーと何か訴えているようで、逃げるなら今しかない。 「おい、離れようぜ」 「う、うん、」 勇次郎達と共にその場を抜け出そうと身をかがめた桔平だが、 「…きっぺー?」 「え、」 自分の名を呼ぶ声。 思わず振り向けば、そこに立っていたTシャツにチェックの膝丈パンツにサンダル姿の東伊の姿に眼を見開いた。 「え?と、トイ君?」 疑問形になったのは、聞き慣れた声だったのに見慣れないその私服姿。 髪も寝起きに手櫛で一括りにしたのかのように、少しボサついた適当さ。いつもと少し違う雰囲気に、まじまじと上から下までを眺める桔平の視線に気付いた東伊が少し眼を伏せた。 「いや、ちょっと適当に来たから、」 何の言い訳だか、桔平の視線に答える中、 「え、きっぺー?」 新たに呼ばれた名前に二人して、眼を向ければかき氷を持った新名がこれまたジャージ姿で登場。 祭りの情緒の欠片も見つからない姿に、ぽかんと二人を見上げる桔平を後ろから勇次郎が突くが、 「あ―――!!っ、来るのが遅いんだよっ!!!」 あの様子のおかしい男からの、耳をつんざく声が祭り会場に響いたーーーーー。 甘い黄色に茶色の焦げ目が香ばしい。 匂いを嗅ぐだけで食欲を唆るのは生まれ持った特質とでも言うべきか。 「焼きとうもろこしって一番うまいと思う」 「りんご飴もあるぞ、いいのか?」 「流石に両手に持って食う程食いしん坊感とか出したくねーよ…」 祭り会場でもある神社の境内にある階段に座り、がじがじと焼きとうもろこしを齧る桔平はぶらりと足を揺らす。 勇次郎達はくじを引きたいだとか、型抜きをするのだとか、また屋台へと繰り出していった。 桔平もまたあの中へと入って行きたい。お面も欲しいと思っていたし、祖父母のお土産に綿菓子も欲しい。 勇次郎も一緒に行こうと手を伸ばしてくれた。 けれど、 (何だかな…) がっちりと両脇に座る二人の態度。 桔平は自分達と話があるから、とやたらと上背のある高校生に見下ろされながら、引き離されてしまえばそれに抗う事も出来ず。 桔平自身も気にするなと笑顔を見せれば、ようやっと渋々と言った風に祭りへと戻って行った。 「つか、あのおかしい人って二人の友達だったんだ」 「「友達とかじゃねーよ」」 「え?そうなの?」 あの小学生でも気づいてしまう程に様子のおかしい男は三谷真琴と言うらしい。 しかも中学生だと思っていたら、まさかの東伊達の同級生と言う事実。 (高校生の男でも自分の事可愛いとか言うんだ…) この先絶対に豆知識にもならない事を新たに知識として知ってしまった桔平だが、勿論口には出さない。 『えっ!東伊も新名も一緒に回らねーのっ!!?』 『なんでだよっ、僕と一緒に遊んでくれてもいいだろっ!!』 『僕がこんな人混みで痴漢とかにあったら、どうしてくれるんだよっ!!』 こんな事を真顔で当たり前の如く言うような奴は逆上するとどうなるか分からないからだ。 本能でそれを感じ取ったのか、底の見えない哀れんだ色の眼を向けた桔平だったが、結局真琴は最初に来た三人に宥められながら屋台へと戻って行った。 「三谷はあの三馬鹿藤に任せてりゃいいんだよ」 「三馬鹿、とう?」 「江藤に加藤に後藤、だから三馬鹿藤」 ーーーなるほど。 顔と名前を一致させるのが中々困難な三人らしい。 新名に頷いて見せると、ふふっとその形の良い唇が持ち上がり、桔平もふひっと照れた笑いを見せた。 「まぁ、アイツにはあんまり近付くなよ。どっかで見ても遠くから観察してやり過ごせ」 「わ、かった…」 東伊からもそんな事を言われれば、従うべきなのだろう。 元々第一印象がよろしく無さ過ぎる。 「うち、男子校だからさ。アイツ容姿は可愛いから人気あって。その結果調子に乗ってんだけど、今」 「へぇ…」 何故に男子校では可愛いとは言え、男でも人気が出るのだろうか。 まだまだ知らない未知の世界。 桔平は祭りの提灯を見つめながら、紅や黄色の光をぼんやりと思うも、今更ながら二人揃っていると言う事実に、はっと顔を上げた。 「あ、あのさ、」 自由研究に誘うのは今なのでは? しかし、 「て言うかさ、きっぺー」 すっと低くなった東伊の声にひゅっと胸が無重力空間に放り出されたような感覚。
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