それしか無い選択肢

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「お前何で連絡してこないわけ?渡した電話番号は?」 「え、あ、あぁ…」 ガチのトーン過ぎる。 萎縮する桔平から夏の爽やかでは無い汗がたらりと流れ、無意識に新名に視線をやるも、こちらも真顔だ。 「何、お前もしかして服と一緒に洗濯したんじゃねーの?」 「や、まさか…」 電話番号はきちんと自分の机の引き出しに大事に仕舞ってある。 幾度と無く自宅の電話の子機片手に番号を押そうとここ数日頑張っていたのも事実。 けれど、数字を押した次にはすぐに『切』と表記してあるボタンを押してしまうのだから先に進む筈もない。 (だって、何て言って良いのか分からんし…) 最初の一言目すら考えて思い浮かばない始末に自己嫌悪すらしていたのだ。 だが、今更そんな事をグダグダと説明していたも仕方がない。 ーーーーよ…しっ 階段をぴょんと降り、まだ食べ掛けのとうもろこしを握り締めた侭二人に対峙する。 「あ、あのさ、」 強張った表情で、声も固い。 何を言われるんだろうか。 逸らす事無く、真っ直ぐに桔平を見詰め返す二人は数十秒後、嬉しそうに微笑むのは確定の事だ。 三馬鹿のうちの一人、江藤に電話をしたのは東伊。 『は?帰る!?え、ちょ、お前等、さっき来たばっかじゃんかよっ!』 「来たから帰るんだよ」 『ええっ、ま、待てって、マコが怒り狂うぞっ』 「知らねーよ、そんな事」 結んでいたゴムを外し、ガシガシと頭を掻く東伊は隠そうともしない、いかにも迷惑だと言わんばかりの声で吐き捨てるようにそう言い放つ。 『お前…幼馴染だろ。ちょっと冷たくねーかっ!?』 「ちゃんと来てやっただけ有難く思え」 『ほら、マコがお前等何処とか言ってるっ!』 「うるせーな」 『あさひ、』 いい加減しつこい。 食い下がる友人達の言葉を遮り、スマホ画面を指だけの力で割らんばかりの勢いでぶった切ると隣の新名を見遣った。 珍しく少しにやけたその表情。 絶対に新名にもどれかの藤から連絡が入っていると思われているが、この様子だと電源から切っているのだろう。 「新名、お前バイトのシフトどうなってんの?」 「あ?入ってたって代わって貰うに決まってんじゃん」 副音声で無理矢理にでも代わらせると聞こえた気もするが突っ込むのも野暮と言うもの。 東伊自身既にバイトのシフトをチェック。 スマホにあるスケジュールに眼を通すと、すぐに店に連絡をしていた。 東伊はカフェ店員。新名はファーストフード店。 夏休みを利用し、週三から週四の間隔でバイトに励む。 顔が良い二人。 それぞれの店で人気になるのはあっという間と言うか、当たり前と言うか。 二人を目当てにくる客も少なくない、と店長からも有難いと拝まれ、他のバイト生よりも好条件で雇われている為にやれる範囲は精一杯頑張るつもりだったのだが、『こうなったら』話は別。 「きっぺーが飯作ってくれるとか楽しみでしかないわ。休みぜってー取るし。東伊、お前もだろ」 「自由研究で三食作ってみたとか、可愛いよな」 「つか、甚平も似合ってた」 「それな」 最初に出会ったきっぺーは今時珍しいただのやんちゃが過ぎる、ランドセルもお似合いのガキそのもの。 次に出会った時は、そのイメージも少し変わり、コロコロと表情が変わり、笑顔は愛嬌のある小学生。 しかもそれがあからさまに懐いてくれれば、悪い気がしないのは当然の事で、悪童かと思いきや、意外と遠慮深く人からの施しに顔色を窺いながら戸惑う姿はこれがギャップと言うのか、と感心してしまった程。 弟と言うものがいれば、きっとこう言う感じか。 ――――とも、思ったがいや、弟でもこんなに可愛いと思える訳が無い。 小さい友人とも言うべきだろう。 家庭環境の所為か、他の小学生よりも大人びた事をさらりと言う事もあれば、冷めた眼付きをする時だってある。 だからと言う訳ではないが、『仲間意識』と言うのもあったのかもしれない。 東伊も新名も。 「今度は日取りが決まり次第ちゃんと電話してくるって言ってたな」 「どっちに連絡してくんだろう」 ちろりと此方を見てくる新名ににやりと笑う東伊はうっそりと微笑んだ。 「そりゃ、俺だろ」 「ふざけんなよ」 ***** 八月に入った頃、祖母が電話をしながら何やら頭を抱えている姿を見た。 プールから戻った時。 ダイニングテーブルに座り、スマホ片手にはぁ…っと重い溜め息を洩らし方と思えば、『きちんと考えなさい!あんたの勝手だけじゃ済まないの…』と固い声音で呟く祖母の姿に桔平は何も言わずにそっと自室へと戻った。 (……馬鹿親父だろうな) 祖母の電話の相手なんて容易に想像が付く。 夏場はダイエットに最適だと若い頃に気に入っていたと言うワンピースをさらっと着こなす祖母はいつも優しい笑顔だ。 そんなワンピースも断捨離だっ!!と潔く捨ててしまうくらい豪傑振りも尊敬できる。 曲がった事が嫌いな祖父と穏やか且しっかり者の祖母。 どうしたらあんな父親が生まれるのだろうかと思う桔平はこれを題材に自由研究すれば良かった、なんて一瞬思ってしまうも、 (あー…駄目だ) そんな事をしたら、祖父母が悲しむ事くらい分かり切っている。 それに、考えるとにやけてしまう。 (トイ君にもにーな君にも、また会えるし) ふふっと家の天井を見上げ、気分が高まるのを感じるのだった。
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