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それしか無い選択肢
再会を切っ掛けに三日に一度くらいの割合でよく顔を合わせる様になり、そこから挨拶を交え、他愛も無い話をする事数回、その後何だかんだと買い食いを共にし、不思議な関係性が出来た頃。
「え、」
「何?」
「二人共、朝比奈って苗字なの?」
「そうだけど」
新名から貰った二つに分かれるタイプのアイスをいつもの公園のベンチで齧りながら目を丸くする桔平は、はて?と首を傾げて見せる。
「え、えー…もしかして兄弟?」
「まあね」
「えー…」
感嘆混じりのそれは若干疑念まじりのもの。
「でも、二人共高校二年生だって言ってなかった?」
「うん」
何だそりゃ。
もしかして双子?二卵性と言うものなのか。
それにしてもあまりに似ていない。見た目もだが、それ以上に雰囲気すらも。
(いや、でもな…)
二人で並んでいたら似ていない兄弟でも背後に両親が揃えば家族に見える例はいくつもある。
極端に一人が父親、もう一人が母親に似ていれば。
立派な家族写真の出来上がり。
「なるほど」
「何がだよ」
一人納得する桔平の頬をむにぃっと掴み、伸ばす新名はふふっと微笑むも、伸ばされた者はたまったもんじゃない。
「いででで…っ」
「ガキの皮膚はよく伸びるなぁ」
「にーな君だってまだ学生じゃんかよ」
離された頬を膨らませ、少し垂れ始めたアイスを慌てて齧る桔平はついでに腕に流れた溶けたアイスも舐めとる。
流れてくるのはアイスだけでは無い。
額からの汗や背中を伝うそれ。
すっかりもう夏。
来週からは夏休みだって始まる。
宿題は心底ダルいが、今年は楽しみな事が待っているのだ。
想像するだけで、ニヤけてしまいそうなイベント。
シャリっと音を立てながら食べ進める桔平は肩を竦め、ふっと眼を細めた。
そんな小学生の子供を見下ろし、声を掛けようと薄く唇を開いた新名は今日も王子フェイスとクラスメイトから呼ばれている美貌を余す事無く発揮させている。
「…き、」
「お待たせ、って何食ってんだ、きっぺー」
「あ、トイ君」
新名の声が聞こえた、と思った瞬間。全てを食べ終え、残ったアイス棒をプラプラと咥える桔平に近づいて来たのは、東伊。
最近は前髪を斜めに流し、暑いからか、しっかりとピンで止め、結んだ髪も上に上げてクリップで止めている。
そのスタイルもスラリとした東伊に似合ったもので、相変わらず今日も良い男だ。
「んだよ、コンビニのソーダアイス?新名から買ってもらったのか?もっとイイもん買ってもらえよ」
「違うって。俺が今日はこれがいいって言ったんだよ」
そもそも買ってもらいたい訳でも無い。
会う度に買ってやると言われ、断れば必要以上に手当たり次第色々な物を購入し、選べと二人が言うからリクエストしているだけに過ぎない。
弟が出来た気分なのか、甘やかす様に物を与えるこの二人。
おかげでちょっとした悩みだって出て来ていたりする。
「俺がカキ氷でも買ってやろうか?」
公園の端で先月から商売を始めているキッチンカーはカキ氷も販売しているのは知っている。
イチゴやブルーハワイ、レモンにメロン。ミルク掛けならば百円プラス。アイス乗せならば百五十円プラス。
盛りも良く公園で遊ぶ子供や親達のオアシスの様な存在、桔平も一度食し、暑さを和らげたものの、
「い、いいや、大丈夫」
ふるふると首を振り、東伊にお断りを。
「これもにーな君と半分こで食ったし」
「半分こぉ?」
訝しげに視線を新名へと送れば、ピッと掲げられたのは桔平が咥えているのと一緒のアイスの棒。
「んだよ、お前もそれだけかよ」
「まーな。でも一応帰りに岡本屋のコロッケ買う予定だけど」
肉の岡本屋は肉屋だが、そこで造られている衣さくさくのコロッケもすこぶる評判が良い。
この二人は育ち盛り。
夕食前に買い食いなんて当たり前。大体の高校生は食欲旺盛なのだろうが、特に二人はダイソン並みの吸収力を持っている様に思える。
でも、桔平は違うのだ。
「きっぺーも買ってやろうか、コロッケ」
「い、いい。大丈夫…」
「んだよ。今更遠慮すんなよ」
「遠慮じゃなくて、」
言葉を濁す桔平の眼もそろりと泳ぐ。
その様子に東伊と新名のアイコンタクトは一瞬。
「おい」
「は、はいっ」
「きっぺー君は何があったのかなぁ?優しいお兄さん達に教えてみろよぉー」
「…………」
にっこりと微笑まれているにもかかわらず、夏本番だと言うのに、ぞくっと背筋を這う悪寒と同時に桔平の顔色も寒色へと変わった。
時折発される、この圧。
心配してくれているのかもしれないが、小学生の桔平からしてみればエアコン要らずの恐怖でしかない。
ぐっと唇を噛み締め、しばし思案するもそろりそろりと二人を交互に見遣ると、はぁ…っと息を吐いた。
そうして、ぽつりと一言。
「最近、太った、から」
思わず手を当てたのは腹。
「ーーーーは?」
「…太った?」
頭の先から爪先までを二人から見られているのをひしひしと感じ取り、余計に積もる惨めさは酷い。
「うー…くだらないって思ってんだろっ」
「いや…思ってねーけど…」
「太ってねーだろ、大体がチビでガリだし」
デリカシーもご飯の上に乗せて食ったのか、お前。
そう突っ込みたくなる新名の言葉に桔平もぎろりと眦を釣り上げるが、おもむろに自分のシャツをぐいっと捲るとそこに見える腹を指差した。
「ほらっ、腹っ!腹だけ見てよっ!」
見てよと言われれば見てしまうのは仕方無い。
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