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ぽこっと小気味よいくらいにそこだけでた腹。
幼児体系、まさにキューピー人形。
「…っ、ぷっ、」
どっちが噴き出したのか、むっと二人を見遣るも、二人とも口元を押さえ笑っている。
「ほ、ほら…やっぱ太ってんじゃん…」
二人から何かを奢って貰い、家に帰っても祖母の出来たて夕飯を美味しく召し上げる。そんな生活を続けていたら遅かれ早かれ、そのうち走るよりも転がった方が早くなってしまうかもしれない。
別に太っている人間に対して偏見を持っている訳ではないが、動きが鈍るのは嫌だ。
「いざって時に動けないのは嫌だしな…」
いざってどんな時だ。
東伊の疑問は至極真っ当なもの。
捲っていたシャツを戻そうとすれば、ぺたりとそこに当てられた掌に驚いた桔平がその腕を追う。行きついた先は新名の整った顔。
東伊も涼し気な眼をくるっと動かしているが、当の本人と言えば掌から伝わる肌の質感や暖かみを感じているのか、すすすっと上下に動かしている。
「…何してんの、にーな君」
「いや、ふっくらしてんなぁ、って」
「………だから、言ってんじゃん、太ったって…」
「妊婦ってこんな感じだよな」
「やめてくんない…?」
ベンチに座り、そんな二人の遣り取りを一人見下ろす東伊はくすくすと笑うが、でもさぁ、と言葉を続ける。
「お前身長伸びて来たんじゃね?」
「え?」
そ、そうかな、と背筋を伸ばせば確かに少し伸びた気がすると感じる東伊は桔平の足もチェック。
「…お前足も意外とでけーし、多分でかくなるだろうな」
「マジで…お、俺トイ君とかにーな君くらいなるかな」
キラキラと輝く眼を向け、声は期待に満ちたもの。ぱっと見普通の少年、人の眼を惹くような顔立ち、スタイルではない桔平だが、こんな表情は正直可愛らしい。素直さが感じられ、そう、思わず苛めたくなるくらい。
「お前俺らの身長知ってんの?新名は185あるし、俺だって182あるんだけど」
「…………」
二人とも大きいとは思ってはいたが、まさかの余裕で180センチ越えとは。
自分が小さい為に感覚がバグっていたのかもしれないが、流石にその身長を超えるのは難しいと言う事は桔平の頭でも理解してしまった。
(日本の成人男性の平均身長って…いくつだ?)
「身長180越えかぁ…いいなぁ…」
むぅっと腕組みし、眉間に精一杯皺を寄せる十一歳の少年は面白くてたまらない。少し膨らんだ頬も丸みとほんのり桃色なのが気持ち良さそうだとすら思う。
東伊が視線を送れば、新名はふぅっと息を吐き、目の前の頭を撫でた。
「何、にーな君…」
「心配しなくても、身長が伸びればその腹肉も均等に割り振られる」
「財産分与か」
東伊から苦笑いでそう言われるも、もう一度自分の腹を撫でる桔平はふぅんと小さく呟く。
「まぁ、成長するって事だから、気にするな」
東伊と新名。
二人の物言いはだいぶ違うけれど、一緒なのは桔平を安心させてくれていると言う事。
あまり人を寄せ付けない雰囲気のある男達がこうして自分に向かって優しい言葉を掛けてくれるのは純粋に嬉しい、くすぐったい気持ちになる。
それを優越感と言うのだろうが、そんな言葉はまだ桔平に思い浮かぶ筈も無く、それよりもと思う事は、
「楽しみだな…早く大きくなりてーし…」
最近、将来に対する期待が出来た事。
今迄はぼんやりと大人になるんだろうな、くらいにしか思わなかった未来だが憧れの対象が出来たらそれなりに楽しみになってきた。
祖父は勿論だが、矢張りここは東伊と新名だ。
子供の桔平から見ても、見た目も良ければ中身も面倒見のいい男。憧れない訳が無い。
父親や母親、一番身近な大人の対応に、どこか冷めた感情を持っていた桔平が此処まで広い考えを持つ様になったのも明らかに二人のお陰だろう。
知り合ってまだ数か月程度。
それでもこうして二人から滲み出る形無いモノに絆されてしまったのだから、凄いとしか言いようがない。
(…………食いモンに…釣られた訳じゃないよな…)
ぽこりと出た腹に若干の後ろめたさはあるものの、そんな単純な人間ではないと信じたい。
しかし、
「あー…そっか、お前って大きくなるんだよな」
「だよなぁ、いつまでも小学生って訳じゃねーわ」
新名と東伊のその言葉に桔平の眼はきゅっと開く。
さっきまで成長だとか身長もそれなりに伸びるだとか言っていた人間が今更何を言うのか。
「何かずっと小さいままでその辺ちょろちょろしてんのかと…」
「大人になるのもあと三十年くらい掛かる感覚で話してたわ」
それはもうホラーだ。
サ〇エさんのような国民的アニメスタイルで生きていくつもりは無い。お隣の息子さんなんて永遠の浪人生とか怖すぎる。
見た目は子供、頭脳は大人な生き方もしたくはない。
けれど、きっぺーの脇に手を伸ばし、ひょいっと持ち上げる東伊はそのまま抱っこ状態で眼を合わせると、こんなに小さいのになぁ、なんて呟いてくれるのがまた腹立たしい。
「東伊くん、力もあるんだ…」
「お前くらいだったら、余裕だっつーの」
小学五年生を軽々と持ち上げる力。
いいなぁ、と肩を竦める桔平は半ば開き直るとその首に腕を回した。スレンダーだが、矢張り男のがっちりとした肩と僅かだが香る香水の匂いに鼻を鳴らした。
「いいなぁ」
「はは」
傍から見たら一体この三人がどんな会話をしているのかと探りの一つでも入れたくなるような光景。
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