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家族
包装紙を開けると、「さとや」の萬月が入っていた。萬月は、どら焼の生地に、中はカスタードクリームとつぶ餡だ。両親の好きな和菓子だ。
私は2個箱から取り出した。母の仏壇の前に座り、1個を供えて、手を合わせた。
「母ちゃん、彩葉さんから。食べてね。」
もう1個は父の前においた。
卓上に戻ると、海丸がお気に入りのボールを持ってきた。
"ねーたん、投げて"
私は、鰤の刺身を口に入れて、左手でボールを放ってやった。
タッタッタッタッ
海丸はボールを取りにいき、またクチに加えてやってきた。何度か繰り返す。誰が教えたわけでもないのに、いつの頃からか、海丸はこの遊びが好きだ。投げては取ってきて、投げては取ってきて、そのうちに満足したのか、海丸は横にふせて、ボールを大事そうに舐めはじめた。
ガチャガチャ
玄関を開ける音がした。
海丸が頭を上げ、玄関の方を見る。
「ただいま」
あ、航平が帰ってきた。
「おかえり」
私は、玄関へ迎えにいった。
「おかえり」
もういちど、声をかける。
「ん…。姉貴、いいよ、飯食ってんだろ」
でも、母が亡くなってから、家族が帰ってきたときに玄関へ迎えに行くのは、私の習慣だ。
「ご飯は?」
「まだ」
ぶっきらぼうな返事が返ってくる。
「今夜は、鰤だよ。」
航平が居間にくると、テレビを見ていた父が
「おぅ!お前もやるか?」
と言った。
「父さん、航平は飲まんよ。」
「そうか、つまらんのぉ」
「仕方ないやろ」
そんな父と私のやり取りには、全く構わず、航平は母の仏壇の前にいき、少しの間、手を合わせていた。
航平が席につくと、海丸が尻尾をふって、そばへやってきた。
「飯、食ったらな」
「ねぇ、私も付いてっていい?」
すると、航平ではなく、海丸が元気よく返事してくれた。
ワォンッ
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