5月〈2〉あたらしいともだち・2

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「……先生、もしかして欲しいですか?」 「いやあ、僕の部屋に置くにはちょっと大きすぎるかなあ。とてもかわいいけどねえ」  先生はぬいぐるみを持ったまま、ちらりと自分の部屋を見た。机の上は整然としているが、本棚に入りきらない本が机の脇やベッドの横に積み上げられている。ほぼ魔術の関連書、時々読み物といった感じだ。確かにぬいぐるみが落ち着けそうなスペースはない。  先生はぬいぐるみを再び丁寧に袋に戻す。最後に頭をひと撫でしたその表情は、なんとなく名残惜しそうに見える。  このウサギは母親にあげようと思っていたが、大きなぬいぐるみを大人の女性が喜ぶかどうかはわからない。それに長距離を持って帰るには邪魔なサイズで、送るにも送料が結構かかるのではないだろうか。  ここに置いておけば先生がいつでも可愛がれるので、やっぱりこのまま持っておくことにした。男子高校生がピンクのぬいぐるみをというのは少し恥ずかしいが、ここに他の人が入ることは滅多にあることではない。  ……ぬいぐるみからの視線が若干気にはなるが、そのうち慣れるだろう。 「あ、そうだ先生。小さいのもいろいろありますよ。もし好きなのがあるなら持っていってください」 「ほんとかい?」  言ってはみたが、果たして男の人がこんなものを進んで欲しがるだろうか? 取ってきた景品を納めていた物入れの引き出しを開けると、先生がパッと寄ってくる。 「わあ、ありがとう。姉の影響かな、昔からかわいいものが好きでね」  紺野先生に関する、ひとつの謎が解けた。  先生の身の回りのものは、何となく『かわいいもの』が多いように思っていた。その理由は学外に出るのが面倒だからとか、こだわりがないからだと考えていた。学校の外に出ずとも、何でも揃う学内の売店は、完全に若い女性客を意識した品揃えであるからだ。  先生は目を輝かせ、しばらく引き出しの中身を吟味すると、何なのかよくわからなかったグッズを手に取った。手のひらに乗るほどの箱。中にはネコのキャラクターのマスコットが入っている。 「これにしようかな」 「これ、なんなんですか?」 「あ、知らないのかい? まあ、見てごらんよ」  先生は慣れた手つきで箱を開け、透明の包装も取ると中身を俺の机の上に置く。ただの置物か? じっと見つめると、ネコのマスコットがひとりでに首を振り始めたので、思わずギョッとした。
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