第1話・たったひとり

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 この学校の制服姿の俺が目撃した人間にもれなく不審がられるのは、魔術を使うために必要な『魔力』という不思議な力は『女性にのみ与えられるもの』にほかならない。  よって魔術師になれるのは女性だけ。校名に『女子』を冠していなくても、魔術学校の実態は国立の名門女子校であり、そこに男子生徒などいるはずがないことを、道ゆく人ですら知っているのだ。 「(たまき)、おまたせ!」  門の中から駆けてきた俺の母親は、普段仕事で着るものではない白っぽいスーツに身を包み、足にはいつもは滅多に履いているのを見ないかかとの高い靴を履いているが……もし石畳に引っかけでもしたら大変なのでは。 「ちょっと、転ぶなよ!」 「あら、心配してくれたの? 大丈夫よ……待たせてごめんね。次々と馴染みの人に会うものだから、つい話し込んじゃった」  実はここの卒業生でもある母親。史上初の男子学生受け入れのために特別な準備をしてくれたお礼をしたいと、一足先に学校に向かっていたのだ。  俺の制服姿を見て満足そうに笑い、こちらに手を差し出してくる。 「荷物、ひとつくらい持っていってあげればよかったわね」  確かに大きく膨らんだショルダーバッグにキャリーケース、おまけに通学鞄までぶら下げている。それでも、自分よりもはるかに身体が小さくて、綺麗に着飾っている人に荷物持ちをさせるのは気が引けるものだ。  手を振って断ると、さらに表情を緩められたので恥ずかしくなって目を逸らす。 「別にこのくらい大丈夫だから。もうあんまり時間ないだろ。行こう」 「うん、その調子なら心配なさそうね。行きましょうか」  二人並んで構内を進むと、随分と年季の入っていそうな桜並木が出迎えてくれた。花はもう半分ほどが散っているが、それて入学式に桜が咲いているというのはなんとも趣があるというか。こんな若造の心にもなにか染みるものがある。  さらに奥へ進むと、親を伴っている新入生の姿がちらほらと見えてくる。もちろん視界に入る学生は全員が女子。わかってはいたが、今さらながら怖気付いてしまった。それぞれ校舎を背景に親子で写真撮影をしたり、入学式の式次第に目を通していたり、こちらをチラチラと見たり。やはり視線が痛い。
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