第1話・たったひとり

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 なんとか視線から逃れるために母親の後ろに身を隠しながら……こちらの方が頭ひとつは大きいので、全然隠れていないが。もし小柄なら女子学生の中にうまく紛れられたかもしれないが、あいにく俺の身長は同年代男子の平均以上に伸びてしまっている。 「こら、隠れないの。周りが女の子ばかりでも頑張るって決めたんでしょ」 「ああ、うん」  曖昧な返事になってしまったが、そうだ、俺は頑張ると決めたのだ。  なんの偶然か、ここに来ることができた。だからこそ、自分にできることを……自分も魔術を修めて、魔術師として働く母親を助けられるようになりたい、そう思ってここに来た。  ◆  俺は、身も心も正真正銘の男性。しかし本来なら女性しか持たないはずの魔力を持って生まれてきた、世界にたったひとりの存在である。とはいえ、周りにはそのことを伏せるよう言いつけられていたので、田舎に住む普通の男子として生きていた。  だからなのか、女手ひとつで自分を育ててくれた母親のことはすごいと思って尊敬はしていても、同じ道を歩もうなどとはつゆほども思っていなかった。たとえ魔力保持者であったとしても、魔術師になることを義務付けられているわけではないからだ。  このまま普通の男子として生きて、中学を出たらレベルの合う高校に、そのあとは大学か? 仕事と言われても……よくわからないな。考えていたことといえばその程度で、これといって何を学びたいだとか、ましてや将来の夢をはっきり描いているわけでもなかった。  そんな心が動いたのはちょうど二年前。ある大雨の夜のことだった。
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