第1話・たったひとり

1/3
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/528ページ

第1話・たったひとり

 十五歳の春。  俺は真新しい制服に身を包み、さらにこれからの暮らしに必要な大荷物を抱えた状態で、これから通うことになる学校の正門前にひとりで立っていた。  歴史を感じる重厚な作りの門を前にすると、自然と背筋が伸びる。俺は最低でも五年間、専科に進学すれば七年間をこの学校で過ごすことになる。  自分のためだけに()()()()()()()()()()()()はまだモゾモゾとして着慣れないが、生まれて初めて自分で結んだネクタイを締め直し、気合を入れる。  ……これからうまくやっていけるかな。  いよいよ入学式を控えた俺の胸の中は、そんな不安で埋め尽くされていた。遠方の学校への進学を機に、親元から離れることになったからなのだが、他にも。  同じく新入生だと思われる生徒が横を追い抜きざまに振り返り、こちらをじっと見る。反応に迷ったが、不審者ではないことをアピールするべく笑顔で返す。首を傾げられてしまった。  実はさっきからずっとこの調子。前乗りしていた駅前のホテルを出てからここにくるまで、すれ違ったり、同じバスに乗り合わせたりで俺を見た人間は、みんな疑念の表情を隠さない。コソコソと話をしながら、指をさしてくるものすらいた。 「まあ、そりゃそうか」  そんな呟きがため息とともに漏れる。学校の生徒にしたら、ここに自分たちと同じような制服を着た男子が立っていれば、そんな顔にもなるのは当然。仮に直接の関係者でなくても、同じ制服を着た俺のことは奇妙に映るかもしれない。あらためて門柱に掲げられた校名板を見る。 『国立 東都(とうと)魔術高等専門学校』  ここはその名前の通りこの国が設立した魔術を学ぶための高等専門学校。いわゆる魔術学校である。ここでは通常の高校のカリキュラムと、魔術の基礎から応用まで一通りをあわせて五年間、もしくは七年間学ぶ。  まずは五年後に、魔術師の国家資格を取ることを目標に、勉学にはげむことになる。その後、専門的なことを学びたければ専科に進学しあと二年勉強する。 「え、男子?」 「そんなわけないでしょ」  ……後ろからの声に思わず振り向く。また、眉を寄せた顔が向けられていたが、諦めずに笑顔で会釈する。ひきつっているとは思うが。
/528ページ

最初のコメントを投稿しよう!