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1 #とある女子高生
少し冷たい風が吹く。3月といってもまだ上旬なので、寒くなったり暖かくなったりして気温が忙しい。もう少し大人しくはならないのだろうかと、無意味にもそう考えてしまう。
私・・・緑丘 遥香 は、高校入試直前に、関東という都会から、T市のいなかに引っ越してきた。本当ならば、そのまま友達と一緒の高校へ入学するはずだったが、父の急な転勤でここへ来ることになったのだ。
T市に来てからは、ずっとスマホをさわっていた。だって、する事がないんだもん。友達のお決まり文句、「毎日LINEするからね!」という約束も、三日坊主にして終わった。
仕方なく、私はYouTubeで動画を見る。いわゆる私の推し・・・「ピーススタート」だ。
毎日のように投稿される動画を、私は飽きることなく見続けた。特に私の最推し、「空知くん」の動画を。彼の会話や歌は、完全に私を魅了していた。彼が居ないと、私はこの街で生きていけないと思う。
校門からうちの学校の敷地内に入る。吹奏楽部の朝練と思われるゴチャゴチャと混ざった音や、テニス部のボールを打つ音が聞こえてくる。私は部活に入っていないから、そのまま教室へ直行。靴箱で靴を履き替え、階段を上る。
一昨日、3年生が卒業した。私のゆういつの話ができる先輩も、この高校から出ていってしまった。先輩は勉強が得意だから、偏差値が物凄くやばい私は大学まで追いかけられない。
つまり、もう会えないのだ。
涙が出そう・・・と思うけど、私の涙は引っ越しの時に果ててしまった。もう、泣けない。
朝の教室には誰もいなかった。みんな部活に入っていたりしているから、活動に忙しいんだろうな。
スマホの電源を入れて空知くんの動画を見る。これが私の朝のルーティン。
『わこすた〜!みなさん、今回はね、あの、有名なホラゲをやってくよー!あ〜怖い怖いw』
あ、これもう見たやつだ。だけど、何度見てもおもしろい。
コツコツコツ・・・と、廊下を歩く音が近づいてくる。まずい。この学校ゆるいんだけどスマホ禁止なんだよな。急いで電源を切って通学カバンの奥に突っ込む。
「お、緑丘。今日も早いな。」
先生だった。
※次回 4月16日投稿予定!
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