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百音は衣替えをしていた。
ただでさえ面倒くさかった衣替えは、ここにきて一日がかりの、いや、それ以上の大仕事になっている。
原因は子どもたち、八歳と六歳とニ歳の三姉妹だ。
大人であれば、衣替えは冬物と春物を入れ替える、それだけのことだ。
けれど子どもはそうはいかない。
特に乳幼児から小学校までは成長が著しくて、去年の春物を今年そのまま着ることはまずできない。
長女の服は買い足す。
去年の長女の服は次女にはまだ大きすぎるから、衣装ケースに仕舞う。その代わりに、数年前に長女が着ていて今の次女に合いそうな服を衣装ケースから探し出す。
それは三女にも同じで、次女の服は仕舞って、次女が一昨年着ていた服を探す。
そうこうしていたら結局、全部の衣装ケースをひっくり返してかきまわすことになってしまって、収集がつかなくなる。
三寒四温でまだ時々寒さが戻ってくるので、冬物も完全には仕舞いきれず、たちまち着る服すらどこに置けばいいのかわからない。
あっと言う間に一部屋が子供服で溢れてしまった。
「ママー、お姉ちゃんが悪いー」
「あんたが言うこと聞かないからでしょ」
学校も幼稚園も春休みに入り、子どもたちの喧嘩まで始まって、もう百音はお手上げ状態だった。
そうこうしていたらお昼になった。
衣替えの手は一旦止めて、昼ご飯の準備にとりかかる。
ダイニングテーブルの上は、これまた散らかっていた。溢れた資料をとりあえずかき集めて、一箇所にまとめる。
百音の育休は三月で終わり、四月からは復職することになっている。
散らかっている資料は、百音の復職に関するものだけではなかった。
三女の保育園入園の資料。次女の小学校入学の資料、それから長女と次女の児童館の資料。
一人の時は働くだけでよかったのに、今は働くためにこんなにもタダ働きをしなくてはいけないのかと思うくらい雑務で溢れている。
夫は今日も仕事だ。
「私も仕事するんだよ。少しは資料読んでよ」
そう言ってみても「忙しいから」の一言で逃げられる。
日本の子育てはまだまだ女性主体だ。
保育園も小学校も、説明会に父親の姿はほとんど見られなかった。
衣替えも母親の仕事で、百音みたいに子供服にうもれる父親など、滅多にいないだろう。
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