【Case03】玲生×小早川

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 「こんばんは」  「小早川さん、お仕事お疲れ様でした。今日はこちらの部屋へどうぞ」  軽く会釈をした先輩と彼が歩く2歩後ろを僕もついていく。プロフィール写真より実物の方が何倍もイケメンで色気があった。改めてこの場にいることが不思議でならない人だ。  初めて入ったカウンセリングルーム。無機質なオフィスにいて、ディスクのパソコンと電話に張り付いていた数ヶ月間から開放され、僕はやっと結婚相談所で働いていると言う実感を得た。   「少し前にお知らせしましたが、岡崎が急遽退職することになりまして、すいません」  「いえきっといろいろ事情があるんでしょうし、僕もここの会員になってまだ2ヶ月ほどですけど岡崎さんにはお世話になりました。ちゃんと挨拶できず残念です」  丁寧で品のある喋り方の彼は紺色のスーツに薄ピンクの可愛いらしいネクタイをしていた。何となくイメージと違い本人がチョイスした風には思えないけど、これも仕事の出来る余裕のある大人ファッションなのだろうか。 僕みたいに、スーツに着せられているような間抜けさは微塵もないスマートな彼。  「それで今日は岡崎さんに代わって、新しく小早川さんを担当させていただくカウンセラーを紹介します」  『あっ、初ましと赤平玲生と言います』  「赤平はまだカウンセラー未経験ですので私もしばらくはサポート致します」  『よろしくお願いします!』  「こちらこそ、赤平さんよろしくお願いしますね」  爽やかな笑みを僕に向けて白い歯を見せた彼。それから3人で打ち合わせが始まり、45分ほど経った頃に時計をチラチラ気にし始めた彼。  「あーすいません。じゃあそろそろ時間なんで帰ります」  「あっ、そうですね。これからお迎えに?」  「預けられるの8時までなので、すいません。バタバタさせてしまって」  「いいえ今日は顔合わせが出来ればと思ってたので。大変ですね」  「いえもう慣れたもんですよ。それじゃ失礼します」  彼はエレベーターに乗り込み軽く頭を下げて扉が閉まった。45度に頭を下さげた先輩を真似て一歩後ろで僕も同じようにした。先輩は髪を耳にかけると振り返って僕の背中をポンと叩いた。  「もう頭あげていいよ。ご苦労様」  『……あの、、さっき言ってた迎えって?』  「ん?あー保育園。小早川さん5歳の息子さんがいるのよね。確か職場も保育園もこのすぐ近くだっはず」  『えっ?小早川さんてお子さんいるんですか?』   「あれプロフィールにも書いてたはずだけど。担当になる会員さんなんだからちゃんと全てに目を通しておかないと」  『あー…すいません』  チクリと先輩からのお叱りを受けてデスクに戻った。正直、彼のプロフィールは一枚目のビジュアルばかりに気を取られじっくりその先は熟読していなかった。  "離婚歴あり 子供有り"見逃していたが確かに大事な項目だ。だけどあんなパーフェクトメン がなぜ離婚を?実はああ見えて、案外ギャンブル好きとか、、もしや暴力的な一面があるとか? 想像力が膨らませ勝手に人物像を作り上げてしまっていた。  それから二週間後、初めてお見合いの席に同席した。先輩が仲人役として間を取り持ち10分間ほど会話に参加し空気を和ませている。そのうち空気がほぐれてきた頃に僕らは退席し、そこからは2人で会話を進めていくと言うものだ。  仰々(ぎょうぎょう)しい雰囲気に慣れない僕は息が詰まりそうになる。緊張からか表情も固い女性とは打って変わって例のイケメン彼は紳士的かつリラックスした爽やかな笑顔で会話をしていた。  「それでは我々はこの辺で。後は二人で会話をお楽しみ下さいませ」  その先輩合図でホテルのラウンジから出た。後は二人次第、一足早く先に会社に戻り終了の連絡を待つ。あの場の空気好きじゃないけど、やること自体は単純で難しくはなくホッとした。やっぱりここっちの部署の方が楽だし異動して正解だったな。  そして翌日、お見合いした二人からの返事が来る日。次もう一度会いたいかどうかの意思確認だ。ここでお互いの気持ちが合えば、本格的なデートに変わる。そしてまず初めに女性からの連絡が入り、先輩が電話を取る。  「はい、、えぇ。そうですかわかりました。ではまたこちらからご連絡致します。失礼致します」  2分程度の短い電話だった。ただこれが僕にはどっちの意味なのかはわからず、表情や声色に乱れがない先輩からは読み取れない。    『……どうでした?』  「今回は縁なかったということで返事がきたからまた仕切り直しね。赤平くん、今後の流れを教えるわね』
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