66人が本棚に入れています
本棚に追加
「はぁ……ン…、、んっ……」
深く求めた二人の唇は休まる事なくぴちゃぴちゃ音を立てて絡み合う。ゴツゴツした石に何度も背中を押し当てながら痛みを感じても止まらないキス。二人が動く度に足元のお湯がゆらゆら揺れて波打っている。
「ハァ、、か……ずま、待って、、」
「んっ……何っ、、?」
彼が口を離して静止するとツーっと垂れた液。我に返って息を整えた彼が一歩下がって離れた。
「どうしたの?突然……しかもこんな所じゃ、、誰か来ちゃうよ」
「そんな事言って……人に見られるのは慣れてるじゃん」
「何でそんな……意地悪言うんだよ」
「だって……ずっと僕は耐えてた。目の前で尚翔がセックスしてるのを見て。スタッフ側のくせにおかしいと思われるだろうけど、見ていられなかった……あの場にいるのも辛かった」
「……和磨」
「だけど尚翔に会うには現場しかなくて、男の僕が気持ち伝えるなんて絶対に出来なかった」
彼にとっては思いがけない言葉だったのか少し驚いた表情で僕を見てくる。彼の大きな黒目に自分の顔が反射して見え、抑え切れなくなった思いを吐き出した。
「僕は、、ずっと尚翔の事が好きだった!」
彼の肩に置いた手に力が入る。彼は目をじっと見つめたまま少し口角を上げた。
「本気に?俺の事好きだっ……て?」
「うん…」
「じゃぁ、、これは両思いのキスだね」
更に深いキスを落としてきた。彼の舌使いが上手くて嫉妬する。このキスをいつも少し離れた場所からただ見ていたけれど味も感触も知らなかった。とても気持ちよくてもっと身体全体で彼を感じたくなる。
「ねぇ、待って。部屋戻らない?じゃないと和磨本当に倒れちゃうよ」
「ははっ。そうだった、、のぼせてたんだ」
「えっ、そこ忘れる?」
顔を見合って笑い合いながらお湯から上がる。二人で十分過ぎる程に温まった身体に浴衣を羽織って冷たい水をグイッと飲んでその場を離れた。
部屋に戻ると彼は早速窓を開けて風を取り込んだ。広縁に並んだ低いテーブルと椅子が二つ。椅子をポンポンと叩いて合図した。
「涼しいからこっち座りなよ」
緩い風に吹かれて彼の浴衣の裾が靡く。誘われるように彼に近寄ると顔を覗きこまれた。
「うーん、さっきよりは顔の赤みも引いたかな」
「……うん。もうだいぶ平気」
「よかった!」
彼は僕の額に手を当て熱を測るようにしながら言った。僕はさっきまでのキスを思い出して今頃照れ臭くなって黙ったまま椅子に座った。
悔しいけどキスに慣れている彼はきっとこれくらいは朝飯前なんだろう。
濡れた髪にタオルを当てながら脱いだ服のポケットに手を入れてごそごそと何かを探し出した彼。煙草を出すとキョロキョロと火を探してる様だ。
テーブルの灰皿の横に置いてあるマッチを取って彼に見せると彼が"ありがと"と取ろうとした瞬間、意地悪く手を引いた。
「あっ、ちょっと!」
「そ、その……する前は、、煙草吸わないんじゃなかった……?」
「えっ!?」
「だって、撮影時は女優さんに嫌われるから吸わないって」
「違う、、仕事の時はそうだけど。今はNaoじゃなくて尚翔のとして、、ありのままの自分で和磨とそうなりたいから」
その言葉に僕はマッチをゆっくり渡す。スッと受け取りマッチを擦って火をつけた。窓の外へ煙を吐き出して落ち着いた様子。いつもと同じ見た事ない外国の銘柄の煙草。
そんな彼の煙草の味を無性に知りたくなった。
「僕にもそれ吸わせてよ」
「えっ、?辞めといた方がいいよ、吸わない人にとっては度がかなりキツいし」
「いや大丈夫だから、頂戴」
何だか子ども扱いされたような気になって意地になって催促する。キスの経験から何もかも彼の方が一枚上手で彼に少しでも同じ目線で話したかった。
「そう。そんなに吸いたいなら……」
そう言って自分の口に煙を含んで僕の口にキスで煙を口移しする。
苦みと癖のある味が舌に絡みついて咽せてしまった。
「ほらねっ、だからやめた方がいいって」
「……何か僕だけ余裕なくてカッコ悪いな」
「俺だって余裕なんてないよ。だって……好きな人とするんだから、、少しでも気持ち落ちつかせようとしたんだよ」
「、、そうなの?」
「だから……そろそろいい?我慢できなくなってきた」
灰皿で火を消して顎に手を添えてきた彼。ゆっくり頷いた僕を見る目はとろんとしていてとても官能的で身体を彼に預けた。
「もう、、途中でやめないでよ」
「やめないよ。これは撮影じゃない。台本もカットもかからないんだから。俺だけ見て、、和磨好きだよ」
「尚翔……僕も好き」
最初のコメントを投稿しよう!