66人が本棚に入れています
本棚に追加
【Case03】玲生×小早川
白いホワイトボードに貼り出された営業成績グラフ表。分かりやすくこの業界でいうところの会員獲得表。高く伸びた棒線が並ぶ中、右から3つ目の僕の名前の箇所だけが色がついていない。
今の時代何かとパワハラだとかすぐ騒がれるのに今だに古典的なプレッシャーを与える会社もあるんだなと逆に可笑しくなってくる。
「あれれ?また赤平のとこだけ書き漏れか?」
『はいはい、そうみたい。ちょっと芝野このペンで塗ってきてくんない?』
「うわっ!もう開き直りの領域に入ってる!ここまできたらもはや最強レベルじゃん」
隣でそう茶化してくるのは、となりにデスクが並ぶ同期入社の芝野 樹。朝10時ギリギリに出社したかと思えば早速イジリが始まる。もう慣れたもんだけど今日は月一の他部署も合同の全体朝礼があるから、芝野に付き合う余裕はない。
「それじゃ全体朝礼始めます。今日は12月になって最初の月曜日なので11月の営業部の成績発表から行います」
前に立って喋り出した部長が表を見ながら成績を読み上げる。
わざわざ口に出さなくても見ればわかるのに。何の為のグラフなのか、前の先輩たちの列の後ろで見えないのをいい事に白けた顔でとりあえず聞いているフリをする。
懸命に部長の話を聞きメモを取る先輩達はやはり件数もそこそこ取っていて、やはりこうゆう所から差が出てくるんだろうな。
『先月も会員取れなかったな、、このままだとマジでクビかな?』
「そんなすぐにクビなんてないから。今の時代ある意味雇用はガッチリ守られてるんだからラッキーじゃん俺らは」
『けどクビになんなくても肩身が狭くて自分から辞めてしまうかも、、』
「俺だって先月まで取れたの1件だけだし仲間だよ仲間っ!」
『あのさ0件と1件の違いは相当大きいんだからな!言い変えれば童貞か非童貞か、1件取ればもうそれは童貞卒業なわけ!」
ヒートアップして声が大きくなる。仕事中に似つかわしくない用語にジロッと上司の視線を浴びて慌てて顔をホワイトボードに向けた。
会議が終わり自分のデスクに戻る。そして今日もいつもと変わらない一日が始まる。大抵このデスクに張り付いて目の前にある電話が仕事の相棒。
『はい。マリッジゲートです。折り返しのお電話ありがとうございます。先日送らせて頂いた資料はお手元に届きましたでしょうか?』
そうここは結婚相談所。僕は営業担当、いわば会員集めが仕事だ。携帯で簡単に出会える時代に結婚相談所の需要があるのか?と思うがアクセスはそれなりにあって興味ある人は多い。
そんな人達に営業電話やメールや資料を送ってリアクションある人をサロンでカウセリングをする。そこまできてやっと入会までこぎつけられるのだが入社して5ヶ月まだ一人も会員獲得出来ていない。
4度目の就職はさずがに失敗したくない。
最初のコメントを投稿しよう!