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卒業したい。
この不毛な関係を清算したい。
一抜けしたい。
何度もチャンスはあったはずだった。
少なくともこれまで三度あった。
でもできなかった。
大体妻子ある男性となんて不倫だ。
私と彼の間に何もなくともあれだ、これはそうプラトニック不倫。
私はずっと彼と不適切な関係なのだ。
私の一方的な熱量に寄って。
卒業したい。
タイミングとしては最高だ。
丁度三月。
世の中は完全卒業シーズン。
今しかない。
取りあえずどこから始めたらいいんだろう。
彼を見ないようにする。
これは実に難しい。
この国にいる限り無理。
SNS断ち。
これ絶対に無理。
スマホがないとこの国では生きていけないし。
取りあえず考えないようにする。
これくらいならできそうと思われるだろうがこいつが一番難しい。
私は起きている間ずっと彼のことを考えている。
自由なのは夢の世界だけ。
完全に思考を制圧されている。
十五年に渡りずっと。
出会いは運命だった。
神奈川出身で誕生日が一緒。
血液型もO型で一緒。
単純に輸血ができると喜んだ。
カレーが好きなところも納豆が食べられないところも。
共通点を見つけるたびに彼をとても近くに感じた。
何度も会った。
手に触れた。
目が合った。
少しだけだけど話したこともある。
ありがとうと言ってくれた。
それだけでここまでこれた。
でも卒業したい。
いい加減自分の人生を生きなくてはならないと思う。
この十五年彼しかいなかった。
大学に行き就職をし、毎日会社に行く、日々の暮らしは忙しくそして地味で毎日判で押された様に変わらない。
その中で彼だけが変わっていった。
私を時の中に置き去りにするように。
卒業したい。
思い起こせばここから抜け出す機会はあった。
有りすぎるくらいあった。
同い年のモデルと撮られた時。
あの時、あの時なら私はまだ十九歳だった。
若かった。
人生に希望しかなかった。
あの一年後に違うモデル(前のモデルの親友)と酒飲んで酔っ払って公園のぐるぐるまわる遊具で遊んでいるところを撮られた時。
正直笑ってしまった。
三半規管強いのではと謎の感想が一番に出て来た。
私は強くなっていた。
彼は案の定叩かれたが精神的筋肉ゴリラになっていた私は強靭な意思で彼を庇った。
その時の溌剌としたツイートがこちら。
何が悪いの?
未成年者じゃないから泥酔する程飲んだって個人の自由でしょ。
独身なんだから女の子と飲みに行ったって個人の自由。
何でもかんでも悪く言うのは相手に人権を認めてないんだよね。
ホントこの国の人間ってアイドルを人間だと思ってないよね。
人権侵害だよ。
訴えていいレベル。
人形遊びなら他所でやんなよ。
つーか吉野担は誰一人文句なんて言ってませんけど?
寧ろ人生楽しんでそうで何より。
微笑ましいわ。
箱推し名乗るなら一人だけ叩くのとか止めなよ。
つーか二度と吉野蛍を語るな。
黙って指加えて見とけバーカ(スマイルの絵文字)
若い。
荒ぶる二十の私。
余りにも若い。
勢いが違う。
好戦的、戦闘民族。
今はもうできない。
次は何だっけ、あ、そうだ。
女優の小野寺エスタと半同棲だ。
これ燃えたっけ?
寧ろ今までで一番大物ではとなった記憶が。
その前に撮られたテレ東の女子アナの方が燃えたか。
あれはでも食事に行っただけっぽかったしなぁ。
あの後野球選手と結婚しやがったんだよなぁ。
一生忘れないわ。
ええと、小野寺エスタの時の擁護ツイートがこちら。
何で叩かれてるのかわからない。
付き合っていたとしてもお互い独身で何の問題もない。
でも実際付き合っているかなんて本当の所わからない。
同じマンションに住んでいる芸能人なんていくらでもいる。
私は実際は付き合っていないと思う。
熱愛の証拠としては余りにも弱い。
手を繋いで歩いていた。
一緒にスーパーで買い物していた。
車の助手席に乗っていた。
これくらいはないと。
人気者は辛いわ。
まあ吉野担が多いから仕方ない。
嫉妬ごくろうさま。
お疲れさまでーす。
冷静だ。
慣れて来たともいえる。
そもそもツーショットを撮られたわけでもなかったし。
この二年後に小野寺エスタ聞いたこともない会社の社長と結婚してすぐ離婚したなぁ。
彼女が結婚するまでインスタ毎日見に行ってたな。
吉野と匂わせするんじゃないかと。
まあ何もなかった。
本当の所期待してたのかもしれない。
私は吉野蛍の全てを把握しておきたいのだから。
一番卒業だと思ったのは五年前のあれだろう。
大量の卒業者が出た。
もはや伝説。
吉野担のレガシー。
その時の吉野担のツイートで一番良かったのは「金曜日じゃなければ即死だった」だろう。
吉野蛍十歳年下グラビアアイドルと熱い夜。
パワーワード過ぎる。
リアルなら死んでた。
あの日の情緒を再現できないことがもどかしい。
確か鍵かけて冬眠中とかやってた、二日だけだけど。
土日何もせず唯眠った。
そして月曜日から再び戦場へと戻った。
その時のツイートがこちら。
吉野が誰と付き合ってようが全然かまわないよ。
吉野を心から愛し、国民的アイドルグループstoryの吉野蛍じゃなく、唯の吉野蛍を好きでいてくれる人ならどんな人でもいいよ。
できれば容姿がいいに越したことはないけど、思いやりが一番大事。
こんなことでアイドル叩いているお前らなんかよりずっと可愛いことは確かだしね。
つーか暇人だね。
いい年して恥ずかしくないんか?
知り合いでもないアイドル誹謗中傷してるって頭沸きすぎ。
こんなことで卒業するならそれまでってことでしょ。
私は一生吉野についていくよ。
吉野みたいにいつも私達を楽しませてくれる人はいないし。
いつもコンサートで全力で走り回ってくれて、会場の隅々まで来てくれる吉野を世界一愛している。
取りあえず通報したからな。
凍結されろカスが。
あれを乗り越えたんだよなぁ。
どうやって立ち直ったんだっけ。
泣きもしなかったけど唯悔しかったんだよね。
こんな記事だけで吉野が普段コンサートで沢山のファンを楽しませてきたことまでが全力で否定されているのが。
これまでの吉野を否定されるのが許せなかったんだよね。
確かに吉野の行動は称賛されるものではないと思う。
でも人間だよなってストンと腑に落ちたんだよね。
寧ろ正直で心根が綺麗だと。
だって皆隠れてこそこそしてるに決まっているし。
帽子被ってるくらいで変装できてると思っているの愛おしすぎる。
そうだ、寧ろこれで一生愛すって誓ったんだった。
じゃあこれは卒業案件じゃなかった。
どれだ、どこで私は道を誤った?
二年前吉野は結婚した。
電撃婚だった。
相手は一度も撮られたことがないし共演したこともない同い年の女優だった。
私はその女優は主役を張るような人ではないがまあよく出とるなって印象で好きとか嫌いとかはなく簡単に言うと考えたことすらない人間だった。
存在は知っていたけど興味がないと言ったらいいのか。
だから現実味が湧かなかった。
匂わせもなく噂にもならずゴールインしたことで何故か過剰に評価されて、ネットは暖かい祝福ツイートで溢れた。
またタイミングを逃した。
私は拳を振り上げる相手もいなかった。
吉野はもう三十三になっていたし、同じグループのメンバーが一年前結婚していたためグループ内での結婚のハードルは下がっていたのだろう。
これまでやらかし続けた吉野だったが最後の最後で上手く着地した。
相手の女優が男性に如何にも人気がある女の敵タイプじゃなかったことも好ポイントとして加算されたのだろうと思う。
とある芸人が結婚おめでとうのコメントで吉野君は本当に真面目なイイコと言ったのは笑ってしまったけど考えてみたら吉野はこれまで一度も道義的な
社会通念的な意味でこの国から弾き出されるようなチョンボはしてこなかったので本来当然だった。
この時程私は吉野を失ったと思ったことはなかったと思う。
私と吉野の関係にはいつも第三者がいた。
それが匿名の吉野を叩く人間であり、私と吉野の間にいつも介在していたように思う。
読み切れないほどのお祝いツイートの中に私の敵は潜んでいたのだろうが幸福の海で溺れ死んだのだろう、見つけるのが困難だった。
あの日から私は吉野を攻撃している人間と戦うのを辞めてしまった。
どうしたってそんなものが吉野に届くはずがないと気づいたからだ。
そして同時に吉野にとっては私も腐れ外道もただ彼の周りをウロチョロしている羽虫に過ぎないと言うことに気づかされた。
あの日から私は卒業できないまま宙に浮き、まるで亡霊のように吉野に憑りついている。
現在私は吉野はインスタはグループのしかやっていないので、吉野夫人のインスタに張り付いている。
いつか吉野が登場するのではないかと今か今かと待ち続けているが一向にそんな気配はない。
三か月前第一子男児が生まれた時吉野インスタ初登場ではと心臓を整えたが見事空振りだった。
手持ち無沙汰なのでいいねと出産おめでとうございますコメントだけしておいた。
吉野の嫁が共演した女優や俳優のインスタに登場したと聞けば飛びついていいねして、素敵なコメントを残すようにした。
そう、私は吉野蛍の嫁まで推さざる得なくなったのだ。
悪化じゃん。
でも嫁が褒められてたら嬉しい。
だって彼女は吉野に付随するものだ。
彼女が産んだ男児は吉野の遺伝子を色濃く受け継いでいるであろう。
見たい。
いつかデビューしてくれんか。
それまで生きていなくては。
あと十五年くらいかかるだろうか。
四十五歳。
あれ、卒業どうなった?
卒業したい。
どう考えても三十五歳子持ちアイドルとかもういいでしょってなる。
でもあれだ。
ライブDVDを見る。
つい見てしまう。
舞台は東京ドーム。
この五万人の中に私がいる。
この光の空間に私は彼といるのだ。
この時間だけ、この中にいる時だけ、私は彼にとってのファンになれる。
一人のファンに。
愛する人と時間を共有することができる。
それがどれほど素晴らしいことであるか私は既に知り尽くしている。
でも卒業したい。
インスタ通知にいそいそするのも止めたい。
夏公開される嫁の出演映画私見に行くんだろうな。
三回は行くな。五回かも。
卒業したい。
いるはずのない吉野を探すのも止めたい。
誰か止めて。
出逢わなければ良かった。
何度もそう思った。
でも私は吉野蛍を知らなかった人生がどれほど虚しいものであったかと思うと震えるのだ。
吉野蛍を知って嫌なものもたくさん見た。
でもそれは吉野が見せたものじゃなかった。
モデルとデートしたって酔いつぶれて成人男性が夜中の公園ではしゃぎまわったって女子アナ女優グラビアアイドルと撮られたって私の吉野メモリーが増えただけだった。
血で血を洗う吉野を誹謗中傷する輩との闘いもあった。
これこそが醜さで大いに言葉で傷つけあった。
私も血の気が多く相当可愛くないことを書き綴った。
そして私は今新たな戦場を見つけてしまった。
吉野と吉野の妻、そして二人の子を守ると言う戦いは次の世代へ!を。
愚かすぎる。
どうしてこうなった?
ああ、いい加減卒業させて。
もっと楽に生きたい。
他人に振り回されない人生を歩きたい。
もう三十一よ。
目を覚まして。
今後の人生に期待することが吉野の子供が俳優デビューするところを見たいとかもう終わりを通り越して、二周目感凄い。
どうしてこんなにもアイドルから人間は卒業できないのか。
誰か解き明かして。
可及的速やかに頼む。
違う、アイドルから卒業できないんじゃない。
執着から、依存から、習慣から卒業できないのだ。
それは人生で生活だから。
朝ごはんを食べることと一緒。
顔を洗い歯を磨き、会社に行く。
人であると言うこと、それなんだ。
さて駆け足で振り返ったけどやっぱり卒業する理由がない。
三月だからくらいしか思いつかない。
先月ファンクラブは更新したし、四月の東京ドームと五月のナゴヤドームチケット取れたし。
糞馬鹿アンチももう放っておけの境地に達したし(ひどすぎるのは黙って通報)緩やかに徒歩でついていったらいいのかな。
でも時々羨ましいとは思うんだ。
醜い言葉で顔も知らない人間同士罵りあったりしないでいられた人生を。
誰かに期待せずにいられた人生を。
まっさらにやり直してみたいと思うんだ。
でも、あの光を思い出す。
本物の星空よりも綺麗だったあの世界を。
そこで笑っていた吉野蛍という世界で一番素敵な男の子のことを。
卒業できない。
してしまえばたちまち今日からすることを失う。
私と彼は最早表裏一体。
勝手に双子。
ぬかるみからは抜け出せない。
底まで沈んでいくから見ていて。
もう諦める。
卒業することを諦める。
結局どうしたって私は吉野蛍という人間から卒業することはできない。
担降り、やっぱりできない、無限に愛す。
担降り、ない、永遠の推し。
担降り、できない、地獄の底までついていく。
ああ、これは滑稽無限ループ・リインカーネーションの理。
ここから外してほしい。
でも無理だって私が一番よく知っている。
体内から愛が消え去らない限り不可能。
私にとって自分を大切にすることが彼を大切にすることなのだ。
彼はもう私以上に私だった。
どうして卒業などできようか。
する必要ないわ。
一億回これを繰り返している。
明日もきっとそうだろう。
覚悟を決めろ。
共に死ぬ覚悟を。
死が二人を分かつ、それまでは離れなくていいんだから。
ひょっとしたら離婚したら他人の嫁より強固な絆があるのかも。
卒業したい。
自分自身を取り戻したい。
でも本当は取り戻したいほどの自分などどこにもいないことを私は知っている。
卒業したい。
それには代わりが必要だ。
吉野蛍に代わる何かが。
それが見つからない。
英語でも勉強してみる?
字幕なしに映画見れたらかっこいい気がする。
却下。
私には「オーマイガー」と言えるポテンシャルはない。
いっそスポーツ観戦。
ルールがわからないし、憶える気力もない。
他グル。
有り得ない。
そもそもアイドルと縁を切りたい。
ゲームでもする?
目が悪くなりそう。
スポーツジムに入会。
めんどくさい。
陶芸。
何処でやっているかわからない。
手芸。
針怖い。
料理教室。
食べれたら何でもいい。
駄目だ。
驚くほどこの世に興味がなさすぎる。
それもこれも吉野蛍のせいだ。
彼が私の基礎だから。
どうしようもなく根源だから。
これからの子供達よ。
アイドルと出逢ってくれるな。
彼ら(彼女ら)は我々を幸福にしてくれる。
だが同時に不幸にもするのだ。
でも断然喜びが勝る。
だからいつまでも人はアイドルを欲するのだ。
あー、卒業してぇ。
来年の目標は決まった。
吉野蛍からの卒業。
緩やかな依存体制からの脱却。
そのためにすること。
趣味を見つける。
生涯打ち込めそうな趣味を。
先は長い。
ああ、でも取りあえず来月のコンサートに着ていく服買わなきゃ。
名古屋も久しぶりだし楽しみ。
ああ、どうしたって私は。
吉野蛍、彼から。
卒業できない。
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