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「ごめんください。ハロウ」
私はある民家の、木製ドアを叩いた。
干からびたレンガでできた家は、頑丈そうではあるが、見た目ほどの耐久力ではあるまい。
ここは公国の中でも中心部からはだいぶ外れた集落である。あまり裕福そうには見えない。
私は、視界の奥に小さくかすんでいる、領主の住む城郭や、脂太りの体を法衣に包んだ僧侶が跋扈しているのであろうハイ・テンプルを眺めて、しばらぼうっとしていた。
昼日中だというのに、辺りは静まり返っている。
家の中からも、一向に返事がない。
やむなく、少々強めに再度ノックする。
返事はない。
むう、と思いながら私がドアを開けるのと、中から年端もいかない少女が出てきたのは同時だった。
「……どちら様ですか……?」
赤い髪を後ろでくくり、麻の質素な服を着た少女は、上目遣いにこちらを見てくる。
その両手には、やや寸の詰まった両刃剣が一振りずつ握られていた。
「お嬢さん、君は幼いながらに双剣術をたしなむのかな?」
「護身用になるくらいには習っています。……あの?」
「私は怪しいものではなくてだな、ただの――」
そう言って私は、家の中を覗き込んだ。
一通り眺め回してから、さらに体をねじ入れる。
「ちょっと!? なんですかその、うわなんかくさい。あなたくさいです」
「――ただの腹を空かした勇者だ。君も大陸正教の信者だろう? 確か勇者ほう助の戒律があるはずだな? ここは教義に従って、炭吹きパンの一つくらい施してくれないか?」
そう告げて、私は、土の床にかまどと石台が据え付けられた質素な居間の、粗末なテーブルについた。
奥には寝室が一つあるようだが、それがこの家の間取りの全てだった。
トイレと風呂は、外の共同小屋を使っているのだろう。
寝室には草を敷いたベッドがあり、粗末な衣服がきちんと畳まれていた。
「人を呼びますよ!? だいたいこの頃の勇者なんて、数だけはたくさんいますけど、教義にあるような勇敢で立派な人なんてほとんどいなくて、ただの定職を持たない旅人ばっかりじゃないですか! こんな風に、貧乏人からたかって!」
私は驚いて眉を上げる。
「何、勇者ってそうなのか?」
「そうですよ! 魔王を倒すって言って旅に出て、家も故郷もほったらかしで、ほうぼうで大陸正教の信者の家で飲み食いして、勇者なんて今やどこでも鼻つまみ者です!」
「そうか……本で読んだ話とはずいぶん違うな。ん? 何をしている?」
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