消えた彼

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「…俺は、蒼じゃない」 そう呟く唇に、再びキスをする。 それは、少し噛みつくように。 突然、肩を掴まれ強い力で引き離されるけど、 次の瞬間、この人の方から私の体を引き寄せキスをして来た。 すぐに、この人の舌が私の口内へと入って来て、 私の舌と絡み合う。 キスをされながら、私はこの人のネクタイをほどく。 上着は脱いでいたので、ワイシャツのボタンを一つずつ外して行く。 全て外れるけど、中に白いシャツ を着ていて。 私はこの人から急に体を離して、 助手席のドアを開けた。 すると、車内は明るくなる。 そんな私の様子を、この人は意味が分からず見ている。 私はすぐに、この人のシャツのウエスト辺りを掴み、たくしあげる。 それは、チラリと見えた。 「辞めろ!」 私の目的に気付いたこの人は、すぐに私の体を自分から引き離すように、押した。 「その脇腹の傷痕…。 やはり、あなたは蒼君…」 蒼君の左の脇腹には、大きな傷痕があった。 それは、実の父親から幼い頃に受けた暴力で付いた傷。 蒼君は、父親から虐待を受けていた。 そして、その父親が不慮の事故で亡くなり、母親も既に亡くなっていた蒼君は、 あの施設に来たのだと、蒼君が言っていた。 「俺は…蒼じゃない」 頑なに、認めない。 私が、蒼君だと分からないと思っているのだろうか? どれだけ顔がそっくりでも、私は蒼君を絶対に間違えない。 「一卵性の双子って…、DNAは一緒でも。 指紋は違うんだよね?」 「それが、なんだって言うんだ?」 「私、昔、蒼君がくれたあの手紙、今も持ってる。 蒼君の指紋がたっぷりと付いた」 今も、私の部屋に大切にそれは仕舞われている。 でも、それは私が沢山触ったせいで、 肝心のその指紋は消えてしまっているかもしれないけど。
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