入れ替わり

1/20

624人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ

入れ替わり

金曜日。 店には、週に一度来るか来ないかの永倉さんは、一昨日も来たばかりなのに、今夜も来ていた。 一昨日、蒼君の事で永倉さんと初めて話したけど、怖かったので、今日はなるべく関わらないようにその存在を避けた。 そして、閉店後の今。 「は? そんなアフター断ればいいだろ?」 スタッフルームの近くで、うちのナンバーワンキャバ嬢のアヤノさんと、ちょっと揉めている。 その場面を見て、やはり二人の関係はそうなんだな、と思う。 付き合ってはないと思うけど、 この二人、絶対に体の関係がある。 風紀で罰金ものだけど、この人達にそれを言える人は、この店に居ないだろうな。 「ダメ。 永倉さんも、この店の本当の管理者なんだから、そんなワガママ言わないで下さいね。 剛田会長は太客なんだから、その誘いを断れるわけないでしょ?」 「なら、お前は、俺の誘いは断われんのか?」 「もう。 そんな子供みたいな事言わないでよ」 その瞬間、アヤノさんは永倉さんの首筋に腕を回して引き寄せると、そっとキスをした。 永倉さんは、納得はしてないが、 それ以上はアヤノさんに言い返さない。 「じゃあ、剛田会長が待っているから、私は失礼します」 そう言って、こちらに歩いて来たアヤノさん。 私は今来て、二人のキスなんて見てないというように、 普通に、お疲れ様です、と挨拶をした。 「紫織ちゃん。お疲れ様」 そう言って去って行く、この店のナンバーワンキャバ嬢。 ヤクザの永倉さんも、そんなアヤノさんには、強くは言えないみたい。 「なぁ、お前」 突然、永倉さんは私に視線を向けた。 「あ、はい!」 相変わらず、永倉さんは怖くて、妙に緊張してしまう。 「お前、今日アフターあんのか?」 「え、はい。 今から、今日新規で私を指名してくれた方と」 「それ、断れ」 「え?」 「適当な理由付けて、断っておけ。 車で待ってるから、さっさと来い」 永倉さんは一方的にそう言うと、 私の横を通り過ぎ、店の外へと出て行った。 えっと…。 どうしよう。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

624人が本棚に入れています
本棚に追加