入れ替わり

5/20

624人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
「永倉さん、背中の虎見せて下さい?」 そう訊くけど、返事を待たずに私は体を起こして、永倉さんの背中一杯に描かれた虎に両手で触れた。 初めて生で刺青なんて見た。 凄い、綺麗! 「お前みたいに、マジマジ見て来る奴は女で初めてだ」 「その言い方だと、男では居るんですか?」 「ああ。うちの兄貴。 今のお前みたいな感じ」 兄貴って事は、先日会った一枝さんか。 「なんで、虎なんですか?」 そう訊くけど、虎が格好いいから以上に理由なんてないか。 んー、でも、この人が、虎格好いいって、その刺青を選ぶのは、なんか変な感じだけど。 「子供の頃、俺ら兄弟でサーカス見に行ったんだけど。 そん時に見た虎が綺麗で。 でか」 それは、凄い意外な理由。 「へぇ、一枝さんと子供の時は仲良しなんですね。 そうやってサーカス見に行くくらい。 あ、でも、今も仲良しは仲良しなのかもしれませんが」 この前スタッフルームで、この人達、兄弟のやり取りを見たけど。 永倉さんがお兄さんに対して、反抗期?みたいな感じだった。 「兄貴だけじゃなく、弟も居んだけど。 あの頃は、俺ら兄弟三人すげぇ仲良かったな。 お前の言うように、今も不仲ってわけじゃねぇけど。 まあ、俺と弟は、ちょっと微妙だが」 そう笑っている感じ、微妙なのだけど、その弟さんとそれなりには上手く行っているのかな? 「だから、お前もこないだ言ってただろ? 施設かなんかで一緒に暮らしてた奴に、知らないフリされたって」 「はい…」 昨日も会った、蒼君。 何故、他の人間のフリをしているのか? 蒼君の双子の兄弟だという、その存在…。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

624人が本棚に入れています
本棚に追加