入れ替わり

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「昔、どれだけ仲良くても、 それはもう昔の話で。 今は、そいつはお前とは関わりたくねぇんだろ? もう放っておいてやれ」 昔と今は、蒼君は一体何が変わったのだろうか? それより、今現在、蒼君が上杉朱ならば、本物の朱はどこに? 「蒼君、実は双子の兄弟が居たらしくて、それが、上杉朱なんです。 昔、その蒼君の双子の兄の朱は上杉製菓の社長の養子になったとかで。 でも、あの上杉朱は、蒼君で。 実は昨日、会社の前で待ち伏せてそれを確認しました。 ハッキリとした言質は取れてないですが。 彼は、蒼君でした」 「へぇ。なんかドラマみたいだな。 入れ替わりか」 永倉さんは、2本目の煙草に火を点けて、それを吸い出した。 「入れ替わりならば、その本物の上杉朱は、何処かで、蒼君として暮らしているのでしょうか?」 そう訊いた私に、永倉さんは煙を吐き出し笑う。 「んなの、殺(や)ってるに決まってんだろ。 自分に瓜二つの双子の片割れが、上杉製菓の御曹司。 かたや自分は、施設かなんかで育って。 お前を見る感じ、そいつもお前と一緒で、大して恵まれた暮らしもしてなかったんだろ? 俺でも、そいつ殺して入れ替わるな」 その永倉さんの言葉は、 頭を鈍器で殴られるような衝撃で。 「そんな…。 蒼君はとても優しい人で…。 人を殺すような、人じゃない…」 「言葉の内容のわりに、自信なさそうな声だな?」 そう、笑われる。 「本当に、蒼君は…」 昨日会った蒼君。 自分の正体を暴こうとする私の首を、締めて来た。 「俺も昔は、人を殺すような人間じゃなかったけどな」 今は、この人は人を殺したりしているのだろうか? そりゃあヤクザだから、そんな事もあるのかもしれないけど。
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