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◇
「ふうちゃんが今からどうしても会いたいって言うから、
俺、もう寝る所だったのに、こうやって出て来たのに。
なに、この子?」
それは、深夜のファミレス。
あの後すぐに、永倉さんは一枝さんにアポを取り、こうして呼び出してくれた。
「いいじゃねぇか?
お前の家、すぐそこのマンションだろ」
そうなんだ。
すぐそこにある、あの高そうなマンションかな?
「で、何?
俺に用があるのは、ふうちゃんじゃなくて、紫織ちゃんなんでしょ?」
私の名前、覚えてくれているんだ。
「ああ。
だから、俺はもう帰る」
そう言って、永倉さんはファミレスから出て行った。
飲みかけのコーヒーを残して。
「俺も、なんか飲もうかな?」
一枝さんは、テーブルの上のタブレットを触っている。
「あの、オーナー」
「一枝でいいよ」
「じゃあ、一枝さん。
あなたと蒼君…いえ、上杉朱さんとの出会いを教えて下さい」
「なんか、尋問されてるみたい」
そう苦笑している。
「答えられないなら、無理には聞かないです…」
やはり、この人は何も蒼君の事を教えてくれないかもしれない。
「朱君とは、仕事の取引で知り合った。
俺、本業って言い方変だけど、居酒屋の経営してて」
「居酒屋…」
それで、この人はこんな遅く迄起きてたのだろうか?
つい数時間前迄、居酒屋で働いてて。
でも、この人がそんな体力仕事をしているようにも見えないけど。
「上杉製菓さんには、アイスに添えるウエハスや、うちで出してるお菓子の盛り合わせで数点下ろして貰っていて。
それで、上杉製菓専務の朱君とは接待がてら食事行って」
へぇ、居酒屋相手の接待に、専務が出て来るのか。
その居酒屋、わりと大きなお店なのかな?
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