入れ替わり

17/20

624人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
「まあ、そのままふうちゃんの言い方すると、 あの女抱かせてやるから、俺にロレックス買え、って」 そう言って、掴んでいた私の手に、指を絡めて来る。 そうか。 それで、永倉さんはあっさりと、こうやって私と一枝さんが会えるように、取り持ったのか。 ロレックス、ねぇ。 「うちの弟、本当にお金がかかるから。 こないだも、ベンツ買ってあげたばかりなのに」 そう笑う顔は、本当に弟である永倉さんが可愛いのだと、思わされた。 永倉さん、可愛いってキャラじゃないが、あのツンツンしてる感じが、兄のこの人からしたら、たまらないのだろうか? にしても、この人、そんな居酒屋の経営だけで、弟にベンツ買ったり、こんないいマンションに住んだり…凄いな。 もしかして、借金とか? いや、借金じゃなくても、ローンでも組んでいるのか。 「何、考えてるの?」 そう、クスリと笑っている。 「いえ、ただ、永倉さん、私に手を出して…。 そのまま、一枝さんに差し出すって、なんか酷くないです?」 その酷いは、私に対してなのか。 この人に対してなのか、分からないけど。 「ふうちゃん。 ああ見えて、けっこう人のものを欲しがる所あるから。 俺が紫織ちゃんをいいなって思ってるのを知って、 ふうちゃんも紫織ちゃんに興味が湧いたんだろうね」 「そうですか」 それで、永倉さんは急に私を誘ったのか。 アヤノさんの代わりだったけど。 「紫織ちゃん、ふうちゃんの虎見た?」 そう言われ、永倉さんの背にある、鮮やかな虎の刺青を思い出した。 「はい。痺れるくらい、格好良かった」 「ふうちゃんね、俺がタイガースのファンだと知っていて、 俺を喜ばせる為に、ああやって、虎を彫ったんだよね」 「え、そうなのですか?」 そう、訊くと、吹き出すように笑っている。 ああ、冗談なのか。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

624人が本棚に入れています
本棚に追加