昔と違う

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◇ 「スリッパないけど」 玄関の扉を開き、蒼君はぶっきらぼうにそう言う。 私に怒っているのか、呆れているのか、どちらともとれるその態度。 「お邪魔します」 靴を脱ぎ、先を歩く蒼君に付いて行き、リビングに入る。 蒼君の住んでいるこのマンションのリビングも、先程まで居た一枝さんのマンションのリビングと、負けず劣らず広い。 家具や電化製品も、高そうなものばかり。 「なに、ジロジロ見て物色してんの? 俺の事、強請にでも来た?」 「え、強請にって。 違うよ!」 そう否定すると、それを信じてくれたのかは分からないが、大きくため息を吐かれた。 「なんで、一枝さんも、未希に俺の家教えるかな」 そう、私の本当の名を呼ばれ、 この人が蒼君なのだと、さらに確信する。 「蒼君、私は蒼君の味方だから! 絶対に、あなたが蒼君だとか言わない」 その、支離滅裂な私の言葉。 蒼君には、意味が通じるだろう。 「一枝さんに、話してないの? 俺が上杉朱じゃないって」 「話してない…かな?」 どうだろう? 話してない事に、なるのかな? そう考え、一枝さんではないけど、弟の永倉さんの方には、けっこう色々と話してしまったな、と思う。 それで、永倉さんが、本物の上杉朱を殺して、蒼君が入れ替わっているって、言っていて…。 「あの、蒼君? あなたが蒼君なら、本物の上杉朱は何処に居るの?」 訊きながら、私を見返して来る蒼君の表情を見ていて、やっぱり、永倉さんの言う通りなのかな、と思ってしまった。 「とりあえず、座ったら? 面倒だから、お茶とかは出さないけど」 「あ、うん」 私がソファーに座ると、蒼君も私の横に腰を下ろした。 その距離が近くて、なんだか昔に戻ったみたいだと思って喜んでしまう。
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