昔と違う

5/9

624人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
「蒼君…」 そう、伸ばした私の手は、払い除けられる。 「俺、言ったよな? 次、また俺に近付いたら殺すって?」 「うん。覚えているよ」 私は、この人に殺されるかもしれない覚悟で、此処に来た。 「俺が朱と入れ替わって、武田蒼という人間がこの世から居なくなったけど、 誰も探さない。 俺なんて居なくてもいい人間だったんだって、思ったよ。 未希だって、そうだったろ? 俺なんて居なくても」 「私は、蒼君が居なくていいなんて、思わなかったよ」 だけど、蒼君を探さなかった。 私以外の女性と何処かに消えたと思っていたから。 「は?本当かよ? けど、もうそんな事どうでもいい。 未希、俺はお前を殺す。 お前だって、きっと、居なくなっても誰も本気で探して貰えない…。 俺とお前は、そうなんだよ。 上杉朱とは、違う」 蒼君の二つの手が、私の首を掴む。 そのまま締め付けられ、ソファーに押し倒された。 私は、目を閉じた。 痛くて、息が出来なくて苦しい…。 ふと、蒼君のその手から力が抜けた。 「―――なんで、抵抗しないんだよ?」 「蒼君を、これ以上困らせたくないから」 蒼君が私を殺したいなら、大人しく殺されようと思った。 「矛盾してないか? 俺の事困らせたくないなら、俺の前に現れるなよ」 そう、私を見下ろす目は、今にも泣きそうに潤んでいる。 「―――蒼君に、ずっと会いたかった。 今も私は蒼君が、大好きだから」 「俺は、もう蒼じゃない。 だから、好きだとか言うなよ」 私は溢れそうになる言葉が出ないように、口を閉じた。 何度も、蒼君が好きだと、言ってしまいそうで。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

624人が本棚に入れています
本棚に追加