消えた彼

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蒼君が居なくなり、数年が経ち。 私は22歳になった。 5月3日と誕生日の早い私。 私は高校卒業後はあの施設を出て、蒼君が就職してから住んでいた場所の近くで、現在、一人暮らしをしている。 蒼君と同じく、就職をきっかけに都会に出た。 そして、今は大きなスーパーの事務員を正社員でしているけど、手取りは四年目の今も13万円で、 生活するだけで、それでは精一杯で。 ちょうど3ヶ月前から、本業とはべつにアルバイトを始めた。 それは、キャバクラ。 GW明けの、今日。 「紫織(しおり)さん、7番テーブルにお願いします」 この店、BLUEHEAVENの店長の佐伯さんにそう言われ、源氏名で紫織と名乗る私は7番テーブルへと行く。 この仕事は、現在は週に3日。 月、水、金と入っている。 「元木(もとき)社長、来てくれたんですね?」 少しずつだけど、私にもそうやって指名客が増えて来た。 「紫織ちゃんに会いたいから、早く仕事切り上げて来たよ」 この人は、わりと大きな会社の社長。 歳は50代で、既婚者。 左手の薬指には、しっかりと結婚指輪がある。 それを目の端に捉えながら、私はこの人の横に座る。 「本当に? 嬉しいな」 そう言って、元木社長に身を寄せた。 そうやって、今日もいつものように1日が終わると思っていたけど。 「―――本当に、こういったお店は慣れてないんですよ」 それは、私が居るテーブルから離れた場所で、店内はとてもガヤガヤとしているのに。 その声が、私の耳に届く。 え、と、無意識に立ち上がっていた。 「紫織ちゃん?」 そう戸惑う元木社長の声も聞こえない。 足が勝手に、そのテーブルへと向かっている。 目に飛び込んで来たのは、突然消えた、蒼君。 最後に蒼君と会ってから5年以上経っているから、 当然、蒼君もその年月分歳を取り容姿に多少の変化はあるけど。 男性にしては、柔らかく、少し茶色みのある頭髪。 奥二重で、少し吊り上がった目も。 形が良くて高い鼻や、口角の上がった唇。 とにかく、この人は蒼君で。
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