愛人

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「永倉さん…。 なら、一つだけ質問させて下さい。 さっきはぐらかされましたけど、蒼君を強請ったりしました?」 それに、鼻で笑われた。 「してねぇよ。 ちょっとお前をからかっただけだ。 この時計は、兄貴に買って貰った。 兄貴から、その辺りの事聞いてんだろ?」 それに、頷いた。 「この時計300万すんだけど。 ご機嫌で、俺にポンと買ってくれた。 兄貴、よっぽどお前の事気に入ったみたいだな?」 そう言われるけど、それに喜んでいいのかどうか分からない。 嫌な気はしないし、どこかで嬉しいと思っているけど。 真に受けていいのか。 「一枝さん、私の何を気に入ったのでしょう?」 「さぁ。 ただ、お前は分かってそうだから一々言う必要ねぇだろうけど。 兄貴は、ただ女を可愛がりたいだけだ」 一枝さんは、誰かを愛したい癖に、逆に誰かに愛される事を嫌がる人。 だからもし、一枝さんを愛してしまったら…。 「心配してくれなくても。 あなたのお兄さんに私はハマらないですよ」 別に、一枝さんがダメなわけじゃない。 やはり、今も私は蒼君に囚われている。 忘れてしまおうと、本当に思っているのに。 「別に、心配はしてねぇけど」 そう、永倉さんは煙草の煙を吐いている。 私はそれ以上話す事なく、スタッフルームを出ようとしたけど。 「上杉製菓の御曹司。 この腕時計よりも、もっと引っ張れそうだな」 「もし、蒼君に近付いたら、 あなたを殺すから」 そう、永倉さんを睨み付けるけど、そんな私の顔を見て口角を上げている。 また、この人にからかわれたのだろうか? 「とりあえず、佐伯にお前をクビにした事話しておく。 二度とこの店来んな」 「言われなくても、二度と、こんな店来ない!」 そう言って、私はスタッフルームを出た。
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