消えた彼

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「蒼君!」 そのテーブルの前に立ち、私は蒼君にそう声を掛けた。 私を見た蒼君は、驚いたように目を見張っている。 「蒼君、私…ずっと蒼君に会いたかった! 急に連絡が取られなくなって、私、蒼君の会社に行ったんだよ? もし、蒼君に彼女が出来て私が邪魔になったのだとしても、あんな風に急に消えないでよ! 言ってくれたら、ちゃんと私、分かったのに!」 私と蒼君は、付き合ってるのかどうかよく分からない関係だったけど。 それ以前に、蒼君は私にとって大切な家族だったから、 彼が心変わりして私じゃない他の女の子を好きになっても。 私と蒼君との関係は、切れないと思っていた。 「あの…あなたは、誰なのですか?」 眉を下げて、困ったように蒼君は私を見ている。 「誰って…。未希だよ? あ、昔と違って化粧とかしてるから、分かんなかったかな?」 そう言っても、蒼君は表情を変えずに私を見ている。 本当に、蒼君は私が分からない? 「紫織ちゃん、人違い? 顔色悪いから、ちょっと疲れてるんじゃないの?」 蒼君のテーブルに付いていた、この店のナンバーワンキャバ嬢のアヤノさんは、 立ち上がり、私の肩を掴み、このテーブルから引き離そうとする。 「人違いじゃない…。 絶対に、蒼君…」 いやいやする子供のように、首を振るけど。 「紫織さん、ちょっとこっちに来て下さい」 こちらの騒ぎに気付いてやって来た佐伯店長に、腕を引かれる。 口調は穏やかなのに、その力は強い。 そのまま私は、バックヤードを抜け、スタッフルームへと連れて行かれた。
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