641人が本棚に入れています
本棚に追加
「蒼君!」
そのテーブルの前に立ち、私は蒼君にそう声を掛けた。
私を見た蒼君は、驚いたように目を見張っている。
「蒼君、私…ずっと蒼君に会いたかった!
急に連絡が取られなくなって、私、蒼君の会社に行ったんだよ?
もし、蒼君に彼女が出来て私が邪魔になったのだとしても、あんな風に急に消えないでよ!
言ってくれたら、ちゃんと私、分かったのに!」
私と蒼君は、付き合ってるのかどうかよく分からない関係だったけど。
それ以前に、蒼君は私にとって大切な家族だったから、
彼が心変わりして私じゃない他の女の子を好きになっても。
私と蒼君との関係は、切れないと思っていた。
「あの…あなたは、誰なのですか?」
眉を下げて、困ったように蒼君は私を見ている。
「誰って…。未希だよ?
あ、昔と違って化粧とかしてるから、分かんなかったかな?」
そう言っても、蒼君は表情を変えずに私を見ている。
本当に、蒼君は私が分からない?
「紫織ちゃん、人違い?
顔色悪いから、ちょっと疲れてるんじゃないの?」
蒼君のテーブルに付いていた、この店のナンバーワンキャバ嬢のアヤノさんは、
立ち上がり、私の肩を掴み、このテーブルから引き離そうとする。
「人違いじゃない…。
絶対に、蒼君…」
いやいやする子供のように、首を振るけど。
「紫織さん、ちょっとこっちに来て下さい」
こちらの騒ぎに気付いてやって来た佐伯店長に、腕を引かれる。
口調は穏やかなのに、その力は強い。
そのまま私は、バックヤードを抜け、スタッフルームへと連れて行かれた。
最初のコメントを投稿しよう!