消えた彼

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「どうした、佐伯?」 スタッフルームへと行くと、ソファーに座っている永倉二葉(ながくらふたば)さんがこちらに目線を向けた。 この永倉さんは、この店のオーナーの代理らしく、 本当のオーナーはこの人のお兄さん。 それは、ほぼ名義だけのオーナーみたいで、実際にこのお店を仕切っているのは永倉さん。 この永倉さん、実はヤクザらしくて、このお店は永倉さんの居る組のシノギの一つらしい。 実際のオーナーのお兄さんは、ヤクザじゃないらしいけど、 じゃないから、オーナーは表向きお兄さんって事になっているのだと思う。 「どうしたって事もないのですが。 ちょっと、紫織さんがお客様の一人を人違いで声を掛けていて。 そのお客様が困惑されていて」 佐伯店長からそう聞かされた永倉さんは、 私に視線を向けて来る。 ヤクザだからなのか、この人の風貌はけっこう怖くて。 見られただけで、怖くて体が震える。 「人違いじゃないんです…。 あれは、絶対に蒼君で!」 そう、永倉さんに訴えるけど、は、と軽く笑われた。 「向こうは、そうじゃねぇって言ってんだろ? じゃあ、そういう事だろ?」 そういう事って、どういう事?と、思いたいけど。 その漠然とした言葉で、よく分かってしまった。 そして、それに心が重くなる。 その時、スタッフルームの扉が開いて、スーツ姿の男性が一人入って来た。
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