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目を開けると、一枝さんが私の顔を見ていて。 眠る前は、私の方がこの人を抱きしめていたはずなのに、 今は私が逆にこの人の腕の中に居る。 「おはよう」 そう、笑顔で。 ぐっすりと眠れたのか、一枝さんはすっきりとした顔をしていて、なんだか安心した。 「今、何時ですか?」 スマホはリビングの鞄の中なので、時間が分からない。 壁にかかっている時計も、私からは死角で見えない。 「もうちょっとで、7時」 「7時…」 このままもう起きるか、休みだしもう少し眠るか、迷う時間。 「もうちょっと、こうさせてて」 一枝さんは、私を抱きしめる腕に力を入れた。 ◇ なんだかんだ、一時間程そうしていて、 ベッドから出ると、私は元々の衣服に着替えた。 「歯ブラシとか、ありがとうございました」 私は洗面所を借りて、新品の歯ブラシを出して貰い、 歯磨きと洗顔を済ませた。 リビングに戻り、キッチンで朝食の用意をしている一枝さんに目を向けた。 「あの、歯ブラシどうしましょうか? 捨てるかどうか迷って」 その歯ブラシは、水気を切り、私の手にある。 おろして貰った歯ブラシは、使い捨てのものではなく、わりとしっかりとしたもの。 前回、ここに来た時に出されたものは、使い捨てだったのに…。 そして、この歯ブラシの色もピンクとかで、 もしかして、私の為にわざわざ買って来て用意してくれたものかな?なんて思ったり。 「また此処に来てくれるなら、置いておいたら? 来ないなら、捨てていいよ?」 そう言われ、考えてしまう。 私は、またこの部屋に来るのだろうか? 「じゃあ、洗面台にあった歯ブラシ立てに置いておきますね」 そう言うと、笑顔を返されて、 ドキドキとしてしまった。 きっと、私と一枝さんは、この先恋人になる事はないのだけど。 付き合い始めって、こんな感じの初々しさだな、とか、思ってしまった。
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