消えた彼

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今の世の中は便利で、スマホである程度の事は調べられる。 上杉製菓…。 翌日、本職の勤務を終えると、 上杉製菓の自社ビルの前に立つ。 大企業と迄はいかないけど、上杉製菓はまずまず大きな会社で、 社名は知らなかったけど、 この会社の商品のお菓子は、何個か知っていた。 こんな所で待ち伏せて、果たして蒼君に会えるのだろうか? 会社に訪ねて行った所で、昨日の様子ならば追い返されそうだから、 こうやって待ち伏せてしまうのだけど。 そうやって数時間ビルの近くで立っていると、入り口から蒼君が出て来て、 足早に何処かに歩いて行く。 蒼君! 少し距離を取り、蒼君を追う。 蒼君は、ビルの横の敷地にある大きな駐車場へと行き、黒いセダンの車へと乗り込んだ。 車? そう思い、慌てて、その黒い車の前へと立つ。 フロントガラス越しに見る蒼君は、 夕べのように、とても驚いたように私を見ている。 車の前からテコでも動かない私を見て、 諦めたのか、蒼君は窓を開けた。 「昨日の子だよね? そこに居られたら車出せないし、他の社員に見られて誤解されたくないから。 話があるなら、乗って」 そう、私を車へ乗るように促す。 私は、すぐに車の助手席へと乗り込んだ。 すると。すぐに車は発進するので、私は慌ててシートベルトをした。 「…蒼君?」 運転する横顔にそう問いかけるけど、 返事はない。 もう夜で、車内も真っ暗で、 その蒼君の顔が、少し不気味に思えて怖くなった。 私、こんな風に車に乗り込んで、大丈夫? そして、車はひとけのない公園脇の路地に停められた。 エンジンも停められ、車内は静寂に包まれた。 この人が、シートベルトを外す音が、車内に響く。
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