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死の一言に一気に冷や汗が噴き出した。しかし、同時に疑問がいくつも湧いてくる。
「じゃ、じゃあなんで俺は今生きてるんだ」
「それは『運命を変えた』からって言えばいいのかな。私の家系には時を遡る力があったの。でも、遡れるのは3時間程度だし、その3時間が経たないと再び遡ることはできなくて」
怖い話かと思ったら今度はファンタジーの話が出てきた。自分から聞いたくせに俺の頭はパンクしそうだった。でも、それを聞くと良い店を教えてくれたのも傘とか準備できかのも合点がいく。ふと話している彼女を見ると、目には涙を溜めていた。
「でも、時間を何度巻き戻しても達也くんは私を見つけて告白してくるし。だから、何度もあなたを死なせることになっちゃって」
「それは悪かった。ごめん、ごめんって」
身に覚えはなかったが、涙を流す香織さんに思わず何度も謝ってしまう。彼女は涙を拭いながら話を続けた。
「でも、なにをやっても変わらず告白してくれる達也くんが好きになっていたの。こんなに一途なら良い人だって思えたの」
そして、香織さんは俺の手を握る。
「今日もそれと同じなの。つまり達也くんは想いを伝えようとすると死んでしまうの」
彼女がはぐらかす理由が分かった気がした。でも。
「そしたら、またやり直せばいいだけじゃないのか。ピンと来てないけど俺何度も死んでるみたいだし」
そう問いかけると、彼女の握る力が強くなった。
「もうそれはできないの。巻き戻せないくらい何度もやり直してるから。でも、前みたいに私からなら大丈夫だと想う。だから、私からプロポーズさせて」
彼女の潤んだ瞳が嘘をついているようには見えない。だが、こちらにもプライドはある。
「何回も告白してきたって言ってるけど、今の俺にはその自覚はないんだ。それなのにプロポーズまで取られるなんて」
俺が言うと彼女はまた泣き始め、手を振り払った。
「なんで死んじゃうかもしれないのに分かってくれないの」
香織さんは横断歩道を渡り俺はそれを追いかける。自分の身体にライトが当たっているのは分かったが足を止めることはできない。
「こっちへ来ちゃダメ!」
クラクションが響く中、彼女が叫ぶ。俺も声を上げて言った。
「嫌に決まってんだろ。だって、俺は香織さんのことが好きだから」
急ブレーキの音がしてトラックが目の前に止まる。少しでもズレていれば跳ね飛ばされていた。
「なにやってんだよ、早くどけろ」
運転手に怒鳴られ、そそくさと横断歩道を渡りきる。そこにはメイクも落ちてしまいそうなほど泣いている香織さんがいた。
「ホントに死んじゃうかと思った」
「ごめん、でも一生後悔したくなかったんだ」
俺はポケットから箱を取り出し、王子のようにひざまずく。そして、箱を開け指輪を見せた。
「改めて・・・・・・これからも一緒にいて欲しい、結婚しよう」
「こんな道ばたでプロポーズなんて。もちろん、よろこんで」
香織さんは涙を流しながら笑顔になる。ふと温かい風が、祝福するように桜の花びらを運んできた。
おわり
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