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 外では桜が散る中、俺は在校生として3年生が卒業証書をもらう姿を眺めていた。全員に渡し終えると、教頭が名前を呼ぶ。 「答辞。卒業生代表 3年1組 時坂香織」  呼ばれると、長い黒髪の女子生徒が壇上に上がった。彼女は自分の書いた答辞を読んでいく。そのハキハキとした声と背筋を伸ばす姿に皆が釘付けになった。  それは俺も同じだった。香織さんは一つ歳が上で勉強もスポーツもできて、おまけに美人だ。ライバルは多いし、もしかしたら彼氏もすでにいるかもしれない。  でも、告白できなかったら一生後悔するかもしれない。  だから、玉砕覚悟で彼女が卒業するこの日、俺は告白する。  そんな気持ちで迎えた卒業式当日、式も無事に終わった。答辞を読む香織さんかっこよかったなぁ。聞き取りやすいし文面も感動的でついうっとりしてしまった。  式が終わると、在校生たちで昇降口から校門まで花道を作る。その中には香織さんへ渡すための手紙やプレゼントを持っている生徒もいた。  告白すると決めたはいいが、どこでしようか。定番は校舎裏にある桜の木の下とか、それとも校門前とか。でも、他の人も狙ってるよなぁ。  悩んでいるうちに昇降口から胸に花をつけた卒業生が出てくる。在校生たちは拍手をしながら「おめでとうございます」と声をかけていった。香織さんが来たら、もっとどよめくはずだ。俺はつま先立ちになりながら昇降口を見つめていた。  しかし、いくら待っても、どよめきは聞こえない。香織さんはもう学校を出てしまったのか。そんなはずはない。まさか、学校の中で告白されてるとか・・・・・・。  俺は慌てて昇降口に入り、校舎の中を探す。彼女のクラスである3年1組に行ってみたが、香織さんも他の卒業生もいなかった。彼女の靴があったのは確認したからいるはずなんだけどなぁ。夜の見回りをする警備員のように教室を覗いてはいないか見ていく。  3周はしただろうか、もう何年何組の教室を覗いたのかも分からなくなっていた。さすがに帰ってしまったのかな。  肩を落とし、昇降口へ戻ると見覚えのある長い黒髪が見えた。それは靴を履いている途中の香織さんだった。  だが、彼女は俺と目が合うなり昇降口から走って出て行く。
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