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……………
………
…
「…はぁ……はぁ」
春の夕陽が私の制服をサラサラと照らす。暑すぎず、寒すぎない穏やかな陽の光。息を切らしながら登る石階段。高く続く一本道。見上げると橙に照らされた鳥居が見えてきた。
『バテすぎじゃない?』
「う、うるさいな。最近運動…して…なかったから!」
歌が完成して投稿した翌日の放課後。彩芽に用事があると言って別れ、学園裏にある小高い山まできた。
目的はこの山の頂上付近にある神社。名を星藍神社という。年末年始と夏祭りの日以外は人気も少ない、どこにでもある普通の神社だ。
幼い頃からこの街にいる私にとって何の変哲もない神社だったが、ここは昔からちょっとだけ不思議な雰囲気を持っていた。
「…ふぅ。ついたー」
『もっと鍛えなよ、蘭織』
「仮想アバターの桜蘭に言われるとなんかムカつく」
「え〜?」
コロコロと調子良く桜蘭が笑う。
何段あるかもわからない石段を登り終え、鳥居をくぐった先。境内にはどこか厳かな空気が漂っている。
「…涼しい」
サラリと頬をそよ風が撫でた。本来であれば暖かいはずの温暖な春風は、なぜかここではほんの少しの涼を感じる。
荘厳な雰囲気に飲まれてなのか、はたまた山の上だからなのか。この神社は昔から少しだけ周りより涼しく感じる場所だった。
『…なんか不思議なところだね』
「涼しいとかわかるの?」
『それはわからないけど、雰囲気』
桜蘭もなにか感じ取っている様子。そういうスピリチュアルな話は信じる方ではないけれど、たしかにここには神様がいる、そんな気がする。
「…あれ?」
狛犬の横を過ぎて境内を歩いていると、本殿に置いてある賽銭箱の前に人影があった。後ろ姿は男性で、どうやら参拝している様子。
私自身あまりここに訪れる方ではないが、人がいるのは純粋に珍しい。
「…!」
足を止めるとその人影がこちらを振り向いた。
野暮ったい黒マッシュの髪型と髪色と同じ黒縁の眼鏡。体つきは大きくなく、むしろ細々として貧弱そう。パッと見、同い年くらいの男の子だった。
「……」
その子は私の姿を確認すると、慌てて本殿から踵を返す。そのまま走るでも歩くでもない絶妙なスピードで私の横を通り過ぎていった。
私と目線を合わせることもなく、一瞥くれるわけでもなく。なぜか逃げるように石階段を降りていった。
別にたまたま居合わせた参拝客と交流をはかる義理はどこにもないが、人目を避けるような仕草と雰囲気が少し気になった。
『今の知ってる人?』
「…ううん、見たことない」
この神社を知っている子なら昔からこの辺に住んでると思うのだが、私には見覚えのない子だった。
とはいえ、地元にいたって知らない人なんてごまんといる。
逃げられた感じにショックを受けながらも、私は本殿の方へ歩みを進めた。
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